いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「空飛ぶ広報室」有川浩(幻冬舎)

空飛ぶ広報室
空飛ぶ広報室

不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのはひと癖もふた癖もある先輩たち!? 渾身のドラマティック長篇小説。


自衛隊×有川浩=ベタ甘を想像いていたら、予想外に社会派だった。
今まで自衛隊を舞台にした2つの短編集では舞台装置としての意味合いが強く、その中で恋愛模様を描くことで自衛隊員も普通の人というのを印象付ける話だったけど、本作は外と中から見た「自衛隊」を中心において書かれた人間ドラマ。そこで行われている仕事がメインという意味では『県庁おもてなし課自衛隊ver.と言えるかも。


それぞれの理由で挫折した若者二人。お互いの何気ない言葉で救われたり傷ついたり思い知らされたり、言葉で自分の本心を正しく相手に伝えることの難しさと、伝わった時の嬉しさや優しさの両方を噛みしめさせてくれる。「言葉」とことんを大事に扱っているのが分かる文章と、思わず綺麗と思わせる言い回しが好き。そしてそこにちょくちょく甘味を混ぜてくるのが流石の有川節。
と、基本的にはいつもの有川作品らしい物語で面白かったのだけど、舞台が完全な現実だった為に自分の感覚とのギャップが最後まで拭いきれなかった。
自分が自衛隊に対して悪い印象がないので、一般で自衛隊を毛嫌いしている人が多いように書かれていることに違和感が。基地近隣の方々は複雑な思いを抱えているのだと思うけど、他は一部の党とマスコミが煽っているだけのような。代わりに無関心な人は相当多そうだけど。
また、小説の性質上仕方がないのかもしれないが、全体的にぬるい。批判にしても嫌な人が出てこないことしにしても。マスコミのやり口もこんなもんじゃないよなあ。
初めは反発しあう若い男女でミリタリーでと有川浩の真骨頂を集めたような滑り出しだったので期待が膨らみ過ぎてしまったのか、中盤から最後まで「なんか違う」「これじゃない」感が付きまとった一冊だった。