いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「サエズリ図書館のワルツさん1」紅玉いづき(星海社FICTIONS)

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)
サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

本が手の届かないほど遠くにあると思っていたこと。
本が母と娘を繋ぐ絆であったこと。
本が祖父への畏れであり、忘れ得ぬ思い出であったこと。
そして、強すぎる願いゆえに、たった一冊の本すら手放せないこと。
そこにあるすべての本には数え切れない“想い”があり、そこに集うすべての読者にはその数だけの“物語”があった。
さえずり町のサエズリ図書館。
それは本の“未来”が収められた、美しく、不思議な図書館。
紅玉いづきが詠う、すべての書物への未来譚(ラブソング)??。あなたにとっての大切な一冊は、きっとここでみつかる。


本が廃れ貴重品になっている未来の世界の物語。
それ以外にも諸々複雑な設定があるが、世界観や時代背景が話が進むにつれ少しずつ明かされていく仕掛けになっているのでネタバレはなしの方向で。
そのため、読み初めは現代の話かと勘違い。そこに見慣れない単語がちょこちょこ出て来て「なんだこれは」と興味を引かれていくうちに、いつの間にか物語にも引き込まれているという感じ。
その物語の舞台となるサエズリ図書館には、それはもう紙媒体の本に対する愛が溢れていた。図書館や書店で感じる独特な匂いが漂ってきそうな描写に、司書ワルツさんや利用者の言葉にこもる愛情と憂いに、ワルツさんの優しくも強い執着を感じる行動にと、本バカには響く要素ばかり。
また、そこを訪れる疲れた人たち(各話の主人公)が、本によって癒されたり少し元気を貰ったりする話の流れも素敵。日々のストレスの大部分を読書で解消している身としては、共感できる部分が多かった。
文句なしに面白かった。いい読書時間をいただきました。