いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ノーブルチルドレンの愛情」綾崎隼(メディアワークス文庫)

ノーブルチルドレンの愛情 (メディアワークス文庫)
ノーブルチルドレンの愛情 (メディアワークス文庫)

そして、悲劇は舞い降りる。美波高校の『演劇部』に所属する舞原吐季と、『保健部』に所属する千桜緑葉。心を通い合わせた二人だったが、両家の忌まわしき因縁と暴いてしまった血の罪が、すべての愛を引き裂いていく。
 彼女に心を許してしまいさえしなければ、眩暈がするほどの絶望も、逃げられやしない孤独な永遠も、経験することなどなかったのに。
 琴弾麗羅の『告別』が、桜塚歩夢の『断罪』が、千桜緑葉の『愛情』が、舞原吐季の人生を『残酷』な未来へと導いていく。
現代のロミオとジュリエット、絶望と永遠の最終幕。


久々に涙が流れるほど泣いた。


ここまで張ってきた悲劇への伏線を一気に回収する重い重い物語。思った通りに絶望は深く、思った以上に長かった。
開幕から遣る瀬無い桜塚歩夢の絶望を突き付けられ、突然の別れから長く長く続くことになる吐季が抜け殻になる期間へと物語が進む。
主人公にこんなに長く凹んでいられたら普通はイライラしてくるものなのに、あまりに痛々しくてそんな気すら起きなかった。当然のように読み手の気分も沈む一方。
そして、決定打になったのが雪蛍の失踪。失踪そのものは『吐息雪色』で分かっていた事実なので泣くことはなかったのだけど、その後が辛かった。葵依が吐季に謝りに来る一幕。一つの台詞もない短いシーンだったのにも関わらず、さらに傷付く吐季に、やっとの思いで掴んだ雪蛍の幸せ、『吐息雪色』で知る葵依の愛の深さにと、色々なものが混ざり合って涙腺が完全に決壊した。
一度決壊してしまうと悔しいかな些細なことでも泣けてしまうもので、叔父の優しさに泣き、立ち直っても自分を卑下し続け、でも周りには優しい吐季の振る舞いに泣き、『永遠虹路』で最も辛い時期の七虹の姿に涙し、と泣きっぱなし。
そして迎えたラストは……そう来ますか、緑葉さん。思いっきり不器用で他にやり方がいくらでもあるだろうと思わずにいられないが、そんなやり方でも無理を押し通してしまう緑葉のバイタリティに頼もしさも感じる。そんな彼女らしい締め方に、吐季は幸せになるのが相当下手そうだけど緑葉が一緒ならきっと大丈夫と思わせてくれる。悲しい物語に大きな救いをくれた。
後半で散々泣かされたけど、最後が嬉し涙で良かった。大きく遠回りしてようやく交わった二人の道に幸せがあらんことを。