いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「葵くんとシュレーディンガーの彼女たち」渡来ななみ(電撃文庫)

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)
葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)

睡眠こそ至上の喜びと豪語する少年、葵には、彼には幼い頃から、誰にも言えない大きな秘密があった、朝起きると、隣に住む幼なじみが変わる――葵は眠るたびに並行世界を行き来してしまうのだった。いつも元気な真宝と、優しいお姉さんのような微笑。二人の幼なじみがいる生活はずっと続く……そう思っていた。
だがある朝、葵の何気ない一言をきっかけに、二人つの世界は少しずつ「重なり合い」はじめる。さらに、葵の秘密を知るもう一人の不思議な幼なじみ・舞花が現れ……やがて世界の選択を迫られた葵が選ぶのは、真宝か、ほえむか、それとも。
夏の終わりに贈る、SF青春ラブストーリー。


読み終わった直後の「どうしてこうなった?」という感想が、段々と「もったいない」に変わってきたところでこの感想を書いています。



正直に言って出すレーベルを間違えたとしか思えない。
タイトルのシュレーディンガーが示す通り、量子力学パラレルワールドを扱った作品で、非常によく考えられた世界観と分かりやすい説明で早々に物語に引き込まれる。そして、主人公・葵の置かれている状況が少しずつ明らかになってきたり、徐々に重なり合っていく平行世界に緊迫感が増していく。
そんな中で動く葵は、ずぼらと言いながらよく動く=物語が停滞しないし(その行動にはたまに首を捻ることがあるが)、二人の少女の間で揺れ動く彼の心境は丁寧に描かれている。
SFとしては文句なく良質、青春もそこそこな良作になるはずだったのだが、、、
所々で入るラブコメ的シーンが世界観と状況にそぐわなかったり、最後がどうしようもなく尻すぼみだったり。
これがライトノベルでなかったらラブコメを挿むこともなく、無理してハッピーエンドにはこだわらずに、こんな中途半端な終わり方にはならなかったのではと思えてならない。後味苦めこそ似合う展開だったのに。
かなり勝手な言い分だが、ライトノベルらしを抜いてハヤカワ文庫JAあたりで出して欲しかった作品。