いつも月夜に本と酒

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「八百万の神に問う4 冬」多崎礼(C★NOVELSファンタジア)

八百万の神に問う4 - 冬 (C・NOVELSファンタジア)
八百万の神に問う4 - 冬 (C・NOVELSファンタジア)

隣国・出散渡の統治者ラウフ・カダルが楽土に乗り込んだ。以前はムメイと名乗り、シン音導師の音討議を見ていた男が、己の意思を代弁する音導師――ザイオンを連れて。


そして――
かつての盟友を相手に楽土の存在意義を懸けた、シン音導師最後の音討議が始まった。

『別れの冬』と銘打たれた最終巻。
楽土の存続を賭けた音討議を前に、死の影が加速度的に濃くなっていくイーオン。しかも音討議の相手は死んだと思っていた幼馴染み。彼が生きていたことで一つの満たされてしまったイーオンの言葉にはいつものキレは無し。
と、それはもう事が悪い方悪い方へと流れていくので、多崎さんはそんなラストは書かないだろうと心の片隅で思いながらも、読んでいて気が気じゃなかった。イーオンは途中で倒れてシンが後を引き継いで逆転勝利、という事後の後味があまりよくない結末まで予想してしまった。
そんな状態からの逆転劇だったからこそ、この感動なのだろう。
何気なくて大切な復活のきっかけも、これまでのこと全てを“有言実行”していった怒涛の追い込みも、音討議での優しく力強い言葉も、全部が心に残った。別れを「悔しい」「羨ましい」という師匠らしくない、でもイーオンらしい前向きな言葉で締めくくったラストの余韻も素晴らしい。
表舞台に立たないまでも、もう少しシンが目立つ話を予想していたので、ここまでイーオン一色になるのは予想外だったけど、ここまでの格の違いを見せられたら何の文句も出てこない。
主人公によって最後にして最高の「言葉の力」を感じさせてもらえた。とても面白かった。


…………ああ、よかった。涙だけ別れじゃなくて本当によかった。