いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「王女コクランと願いの悪魔」入江君人(富士見L文庫)

王女コクランと願いの悪魔 (富士見L文庫)
王女コクランと願いの悪魔 (富士見L文庫)

「さあ、願いを言うがいい」
「なら言うわ。とっとと帰って」
王女コクランのもとに現れた、なんでもひとつだけ願いを叶えてくれるという伝説のランプの悪魔。しかしコクランは、願うことなど何もないと、にべもなく悪魔を追い払おうとする。
なんとか願いを聞き出そうと付きまとう悪魔。しかし、“すべてを与えられた者”と謳われるコクランを取り巻く王族と後宮の現実を知ることになり……。
物語を一人演じ続ける王女と、悠久の時を彷徨う悪魔の、真実の願いを求める恋物語


読み終わって思わず「あー、よかった」とつぶやく。
直接的には「ラストが」だけど、これは「物語全体が」だね。
個人的に今年一番のヒット作。


後宮を舞台にした聡明な一国の王女と、所謂「ランプの魔人」な悪魔の奇妙なやり取りを軸にした物語。
後宮内での女同士の地位争いに、王女の立場から見える貴族達の権力争い。様々な思惑が渦巻きドロドロとした思念が見え隠れする世界を背景に、そこで生きる王女・コクラン生き様を描く。
そんな重苦しい世界観であるが、コクランと悪魔・レクスの会話は基本軽快でコミカル。
相手の裏を読み合う騙し合いのような会話は、レクスの軽い口調と結局は言い負かされるレクスの様子が可笑しくて楽しいし、コクランが饒舌な時には漫才にも思える軽快で毒の効いたやり取りも繰り広げられる。
また、悪魔と一緒に王女を見守る側面があるのだが、そのコクランがとにかく魅力的。
悪魔に願いなどないと言い切る彼女は、それに見合った強さや意外な弱さだけでなく、負けん気、本バカ、茶目っ気、寂しさ、狂気……本当に色々な表情を見せてくれる。彼女を知れば知るほど可愛らしく、知れば知るほどその闇の深さを思い知らされる。
二人がお互いを知り、重苦しい世界観が牙をむき始めると、二人の会話には切なさが増していく。
そして、ついに放たれるコクランの本当の願い。二人の秘密を知った後で。しかもこんな場面でこれは……。嬉しさもあるはずなのにそれを圧倒する切なさと絶望感が胸に来た。追い打ちをかけるエピローグは涙腺に来た。
時にコメディであり、時にサスペンスであり、最後は極上のラブストーリーで締める。最高でした!