いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ちょっと今から仕事やめてくる」北川恵海(メディアワークス文庫)

ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)
ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)

ブラック企業にこき使われて心身共に衰弱した隆は、無意識に線路に飛び込もうしたところを「ヤマモト」と名乗る男に助けられた。同級生を自称する彼に心を開き、何かと助けてもらう隆だが、本物の同級生は海外滞在中ということがわかる。なぜ赤の他人をここまで? 気になった隆は、彼の名前で個人情報をネット検索するが、出てきたのは、三年前に激務で自殺した男のニュースだった――。
スカっとできて最後は泣ける、第21回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞”受賞作。


ブラック企業で仕事に追われ、追い詰められて自殺寸前だった青年が、ひょんな出会いから救われていく物語。
主人公・隆が精神的に追い詰められていく様子がかなりリアル。パワハラ上司のクズの先輩に囲まれ、自分の責任でなくても自分のせいだと思い込み、負のスパイラルに陥っていく姿は痛々しいを通り越して見ていられない。
そんな隆に手を差し伸べるのが、謎の男・ヤマモト。彼が実にお節介。でも、それが
無理矢理呑みに連れていって愚痴を吐き出させたり、冗談めかした口調でアドバイスしたり。これが擦り切れた心に沁みること沁みること。彼のアドバイスから生まれた親への電話では、父母の言葉に泣かされもした。
と、基本的には大変いい話だったのだけど、手放しで絶賛できない感覚のズレを感じた。
決定打だったのが「ちょっと今から仕事やめてくる」を実行した時。
隆が部長に啖呵を切ったところまではあらすじの謳い文句どおりにスカッとしたのだが、その後のやり取りで茫然。何が「頑張れよ」だよ。あんたが頑張る機会を奪ったんだろうが。隆も訴えてもいい相手に「はい!」じゃないよ。
タイトルの掴みは完璧、中身もハートフルで良かったのだけど、繊細な話だっただけに、ちょっとの事が気になってしまった。