いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。」友麻碧(富士見L文庫)

かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。 (富士見L文庫)
かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。 (富士見L文庫)

あやかしの棲まう“隠世”にある老舗宿「天神屋」。
亡き祖父譲りの「あやかしを見る力」を持つ女子大生・葵は、得意の料理で野良あやかしを餌付けていた最中、突然「天神屋」の大旦那である鬼神に攫われてしまう。
大旦那曰く、祖父が残した借金のかたとして、葵は大旦那に嫁入りしなくてはならないのだという。嫌がる葵は起死回生の策として、「天神屋」で働いて借金を返済すると宣言してしまうのだが……。
その手にあるのは、料理の腕と負けん気だけ。あやかしお宿を舞台にした、葵の細腕繁盛記!


「宿飯」よりも「あやかし」に惹かれて買ったのだけど、思いがけず飯旨小説で二度美味しかった。
この作品の魅力は八割方主人公・葵の魅力。
突然異世界に連れてこられて、借金のかたで嫁入りしろなんて言われたら、悲観に暮れて何もできなそうなものだが(まあ、それでは物語にならないが)、嫁入りは嫌だから働いて返すと言い出す反骨精神に、見知らぬ場所でまわりは妖怪でも物怖じしない肝っ玉の据わり様、どんなに卑下されても屈しない精神力と、とてもパワフルで頼もしい。
それでいて、ここぞのところでは尻込みする押しの弱さや、生き方や世渡りは決して上手くない不器用さ、困った人(妖怪)を見たら手助けせずにはいられない優しさと、はねっかえりな性格とは違う面もちらほら見えて、そのアンバランスさが人間臭くて魅力的。
それと彼女のもう一つの魅力が料理。醤油の香ばしい匂いが漂ってきそうな素朴な料理の数々が食欲をそそり、あやかしたちも読者も虜にしていく。
話としては「嫁入り」もしていなければ「宿飯」も始まっていない序章のような内容だったが、十分面白く、先が読みなくなる作品だった。この祖父にしてこの孫ありと思わせる、あやかしたちの口から伝えられる祖父・木史郎の(悪い意味での)伝説の続きと、その祖父の矛盾の多い行動の真意が気になるところ。



大旦那様の大好物はカレーですね(確信)