いつも月夜に本と酒

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「ハイカラ工房来客簿 神崎時宗の魔法の仕事」つるみ犬丸(メディアワークス文庫)

ハイカラ工房来客簿 神崎時宗の魔法の仕事 (メディアワークス文庫)
ハイカラ工房来客簿 神崎時宗の魔法の仕事 (メディアワークス文庫)

昔ながらの工房が軒を連ねる、東京は浅草の職人街。
魔法使いがいるという噂の革工房『ハイカラ工房』を覗いてみれば、今日も無骨な青年が、熱心に仕事に打ち込んでいる。
工房を切り盛りする店主は、若き革職人・神崎時宗。手ぬぐいを頭に締めた、目つきの悪さが際立つ風貌とは裏腹に、腕は確かで仕事は丁寧。
その巧みな腕前で、工房に持ち込まれる、曰く付きの革製品と、そこに籠められた人々の想いまで、たちどころに修理してしまうらしい。
どうやら彼が持つ魔法のような技術には、秘密があるようだ――。

大正時代にタイムスリップしてしまった革小物の職人の物語。



とても良かった。
過去に行った現代人が現代の技術を駆使して活躍するよくあるタイプの話ではあるが、キャラクターも作品の雰囲気も優しさに溢れていた。
主人公・時宗は口下手で粗暴な言葉使いな青年ながら、革製品への情熱と自分の技術への自信、他人に対する思いやりは人一倍。全四話で四作品、どの革製品からも言葉ではなく作品で雄弁に語る職人の心意気が感じられる。実に格好いい。
もう一人、ヒロインの椛も魅力的。
大正時代の女性らしい大和撫子で一歩引いた位置にいて初めのうちは目立たないが、一話毎に時宗との距離が近くなって、隣に居るのが自然になっていく様子が微笑ましい。それに後半は仕草がズルい。こんなに慕ってくれる和美人に不安げな顔でシャツの袖をそっとつままれてグッと来ない日本男児は居ないって。
また、細かいところでは革の薀蓄が随所に入っているのも嬉しいところ。
ただ、ラストがちょっと意外だった。どうにも締まらない終わり方で続刊ありきかと思った時、ふとプロローグを思い出してハッとした。
現代の親方の不自然な行動の全てに辻褄が合うようになっているのか。若干の理不尽さも覚えた厳しい言葉にこんな裏があったなんて。いや、見事だ。そうすると親方が言いよどんだ見舞いの相手はもしかすると……。
問題なく続きが出せる作りになっているので、続刊に期待したい。