いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「犬と魔法のファンタジー」田中ロミオ(ガガガ文庫)

犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫)
犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫 た 1-19)

未踏の地を夢見て、若者たちが冒険の旅に出たのも今は昔。平和な時代が長いこの大陸では、冒険なんていまどき流行らないし、食べていけない。若者たちの夢は、無事に就職すること――。主人公・チタンは口下手で要領の悪い大男。一生安泰の宮廷務めを目指し就職活動に明け暮れるも、すべて不採用。現実は残酷で、理不尽で、不公平だ。絵に描いたような英雄譚はどこにもない。チートな能力に目覚める朝も、聖剣を抜く日もやってこない。武器無し、職業無し、特技なし。田中ロミオ最新小説は、ファンタジー世界なのに、リアルな青春。


犬はともかく、魔法があってエルフやドワーフなどの異種族と共存している純ファンタジーな世界観。なのに、やっていることは現代日本式の就職活動というシュールな作品。作者曰く、夢も希望もないファンタジー
これから就活を迎える大学生には是非読んでもらいた……くない作品w
装飾、誇張して書かなければならない履歴書に悩んだり、“お祈り”され続けてで気力をガリガリ削られたり、大学生が就活で精神を疲弊していく様子がリアルすぎる! しかも最終的に就活には負けちゃってるし。
結果的にチタンが選んだ道に「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ」という某ジブリ作品の台詞が思い浮かんだが、入るまでは苦行・入ってからは社畜と考えると、どちらが本当にしんどいのか分からんね。……うわぁ、本当に夢も希望もないな。
それでも、就活以外の部分にはロマンと青春が詰まっていた。
口では「宝なんてない。モンスターとの戦闘なんてない」と世知辛いことを言いながら、どちらちゃんとあってインディージョーンズ的なワクワク感のある冒険シーン。初めは犬猿の仲から始まったとチタン(主人公)とヨミカが、シロ(犬)がきっかけで話すようになり、お互いのみっともないところを見せながら少しずつ距離が縮めて、最後はチタンが遭難したヨミカを助けに行くまでになる過程は青春そのもの。まあ、就活が8割でその他の部分は2割程度なんですがね(^^;
現在の就活はこれほど氷河期ではないらしいので、一昔前の就活の苦悩をハハッと乾いた笑いで笑い飛ばしつつ、就職だけが人生じゃないというのを心の片隅に置ければいい、多分そんな作品。