いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君の色に耳をすまして」小川晴央(メディアワークス文庫)

君の色に耳をすまして (メディアワークス文庫)
君の色に耳をすまして (メディアワークス文庫)

芸大に通う杉野誠一は"声の色"で見たくもない人の感情や嘘が見えてしまうことに悩まされていた。そんな彼がキャンパスで出会ったのは声を失った透明な女の子
『川澄真冬』と書かれたメモ帳で自己紹介をした彼女は、誠一の映像制作を手伝いたいと申し出た。不審がる誠一の前に、古ぼけたカセットが置かれる。そして、彼女は手伝う条件として、テープに録音された姉の歌を映像に入れて欲しいという。
彼女に惹かれ、生まれて初めて心の色を知りたいと願う誠一。だけど、彼女の透明な色には秘密があって――。


あー、もやもやするー。
ある一点を除いた他の要素は凄く好みなのに、その一ピースがどう頑張っても填まらない。


人の感情をが色で見えてしまうことから人間関係が怖くなり、殻に閉じこもりがちな主人公の青春ストーリー。
理由は極端だが、他人に感じる怖さは共感しやすくて感情移入のしやすい主人公。そのお相手の彼女は失声症で喋れないのに、そうとは思えないほど明るさと素直さと行動力で主人公を引っ張っていってくれる、草食系男子垂涎のヒロイン。その二人が距離を縮めていく様子も、丁寧に綴られていて実に良い。
また、基本はちゃらんぽらんでも、暗い後輩を気遣い要所は締めていく主人公の先輩もいいキャラだった。そもそも彼がいないと物語が始まりも動きもしなかっただろう。
そんな中でただ一つ、彼女の目的というか一連の行動に至った思考だけが、どう好意的に解釈しても納得できない。わざわざいくつも嘘をついてまでこんな回りくどいする理由はどこに? そのスタートが分からないから、主人公の一生懸命な説得も論点が分からない。ヒートアップする二人に置いてけぼりにされた。エピローグもハッピーエンドだったのに、首を傾げたまま終わってしまった。
本当に好みのタイプの話だっただけに、惜しい。もどかしい。