いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「だれもが知ってる小さな国」有川浩(講談社)

だれもが知ってる小さな国
だれもが知ってる小さな国

ヒコは「はち屋」の子供。みつ蜂を養ってはちみつをとり、そのはちみつを売って暮らしている。お父さん、お母さん、そしてみつばちたちと一緒に、全国を転々とする小学生だ。あるとき採蜜を終えたヒコは、巣箱かの置いてある草地から、車ととめた道へと向かっていた。
「トマレ!」
鋭い声がヒコの耳を打ち、反射的に足をとめたヒコの前に、大きなマムシが現れた――
「有川さん、書いてみたら?」その一言で、奇跡は起きた。佐藤さとるが生み出し、300万人に愛された日本のファンタジーを、有川浩が書き継ぐ。


元になった作品は児童文学のファンタジー小説だれも知らない小さな国
50年以上前からあるベストセラーをどう引き継ぐのか興味津々だったのだけど……。


はっきり言って始まってからしばらくは退屈だった。
というのも、語り部である小学生三年生の男の子・ヒコが実に聡明だったから。
その聡明さのおかげで子供の語り口調でありながら大人でも読みやすい反面、気になる女の子が出来ても必要以上に失敗しない、コロポックルのトモダチが出来ても暴走しない、と実に冷静。それゆえ物語はヤマがなくゆったりと進む。
それともう一つ『だれも知らない小さな国』との繋がりが見えてこなかったのもある。作中で読んで夢中になるヒコと、元から好きで彼に薦めたヒメが仲良くなるきっかけくらいにしかなっていない。
それが一変するのが四年生になった夏、テレビ番組でコロポックルの特集がされてから。
嘘ばかり内容と懸賞金までかけて煽る心ない番組構成に憤るヒコとヒメ。その番組を作った人(新しくできた友達の従兄弟)や取材に来たタレントに噛みつく二人と、それをサポートする大人たちによって、テレビ側の人間がやり込められる様子は実に痛快。
さらに、助けてくれた大人たちの誰もが『だれも知らない小さな国』が大好きで、大人になってもコロポックルを如何に大事にしているかが分かってくると、彼らの行動から作品への愛をひしひしと感じた。
気付けば後半はすっかり引き込まれていた。これだから有川作品は恐ろしい。最後は締めはデザートだ!とばかりに甘味を入れてくる辺りに有川さんらしさも出ていて、とても心地よい読後感。