いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「不器用な天使の取扱説明書」黒木サトキ(HJ文庫)

不器用な天使の取扱説明書 (HJ文庫)
不器用な天使の取扱説明書 (HJ文庫)

高校入学を機にオタクをやめ、楽しい一般人ライフを目指す峰本信哉だったが、教室の隅でひたすら漫画を描いていたクラスメイト目崎凛が起こした騒動をきっかけに凛に元オタを見破られてしまう。その後元オタをネタに凛の漫画を手伝う羽目になったり、騒動解決以来クラス委員の沢渡千佳に頼られたり。過去と現在の狭間に揺れる信哉の決断は?

第9回HJ文庫大賞大賞受賞作



オタクな主人公が高校デビューを目指すもやっぱりボロが出て色々やらかすドタバタラブコメなんだろうと思って読み始めたら、意外にも真面目に創作活動に打ち込む青春小説だった。
その中心にあるのが中学時代にラノベ作家を目指すも挫折した主人公・信哉の苦悩と葛藤。
手助けをすることになったヒロイン二人や元同級生の才能と懸命さや努力の跡を見せつけられて「打ちひしがれる」「夢を追えるのが羨ましい」「妬ましい」「もう一度俺も…」などなど、ポジティブ一割ネガティブ九割ぐらいの割合で様々な想いが浮かんで渦巻いていく様子が青臭くて素晴らしい。若者が青春してるなあって感じが強くした。
まあ、出来としては悪い意味で新人賞らしいのだが。
紹介に文字数も口絵も割いたのにその後ほとんど出てこない級友二人や、メインヒロインのライバルになるわけでも主人公に発破をかけるわけでもなかったもう一人のヒロインなど、お世辞にもキャラクターの使い方は褒められない。また、こんな説得で納得する親がいるかい!とズッコケそうになる起承転結の結のシーンの台無し感など、もうちょっと考えて/煮詰めてと思うところもちらほら。
それでも黒歴史を笑いではなく、ただ痛いだけでもなく、綺麗に青春に持っていった力量は見事。完成度は高いだけでパッとしない新人賞作品が多い中、本作はきらりと光るものを見せてくれる作品だった。