いつも月夜に本と酒

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「ギルド〈白き盾〉の夜明譚」方波見咲(MF文庫J)

ギルド〈白き盾〉の夜明譚 (MF文庫J)
ギルド〈白き盾〉の夜明譚 (MF文庫J)

凶暴な魔獣犇めき、血気盛んな傭兵達が活躍する最後のフロンティア――新大陸。伝説の傭兵『魔眼の騎士カール』に憧れる少年レイ・ブラウンは、傭兵になるために新大陸を訪れた。到着直後にカールの子孫・マリールイズと運命的な出会いを果たしたレイは、なんとカールの作った伝説のギルド〈白き盾〉との契約を持ちかけられる。ところが、レイに任された仕事はギルドの経営・兵站管理を行う『運営職』だった!? しかもギルドは伝説の面影も無く、今や経営破綻目前で――。第11回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作、夢と希望と赤字が織りなす本格派ギルド経営ファンタジー! 「ご安心ください! 借金してでも、依頼は達成して見せます! 」

あらすじの「血気盛んな傭兵達が活躍する最後のフロンティア――新大陸」だったのは過去の話。近隣住人が困っていても利益が出なければ働かない、ギルドの看板や自分の名声に傷がつかない限り面倒な仕事を避けて通る、そんなギルドばかりになった土地で、正義の為に人助けをするマスターと強敵と戦うために傭兵をやっているロマン溢れるメンバーがいるギルド〈白き盾〉と、それに巻き込まれる主人公・レイの物語。



少年の夢と希望を打ち砕く、世の中金だ!な世知辛いファンタジーだった。
ギルド運営やクエスト攻略に掛かる費用を真面目に考える物語で、ゲームに例えるなら戦って強くなるRPG的ではなく、運営シミュレーション。何せ収支報告書(かなり簡単なものではあるが)が出てくるからね。
現実が見えていない上に頑固or我が儘なメンバーを説得したり上手く使ったりして、どうやって経営を黒字に持っていくかがこの作品の読みどころ。利益を出す為に頭を捻り策を弄す様子はどこか『狼と香辛料』を思わせる。
普通のファンタジーでは目を向けないところに重きを置いた着眼点が面白く、金・金・金でもギスギスしないコミカルさがありつつ、でも必要以上にギャグに走らないバランス感覚は新人賞とは思えない。また新人賞にありがちな詰め込み過ぎや小ネタの乱発等も無いのも好印象。
一方で、主人公の仕方なくやっている感が最後まで拭いきれないのと、達成感があまりない=読後感が微妙なのがマイナス点。彼に強い動機があれば多少の失敗はあっても晴れ晴れとしたラストが迎えられたと思うのだが。ついでに上げると、二章では営業の仕事の説明をしていたのに、その後やってることは経理なのが不思議だった(あとがきに答えらしきものがあったが)後には繋がらないし主人公はやる気ないしで、二章が要らない子になってるのに修正はしなかったのか……。
発想は新しく筆力もあって納得の最優秀賞だった。主人公にもう少し魅力があれば文句なしだったかな。