いつも月夜に本と酒

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「フルメタル・パニック! アナザー12」大黒尚人(富士見ファンタジア文庫)

フルメタル・パニック! アナザー (12) (ファンタジア文庫)
フルメタル・パニック! アナザー (12) (ファンタジア文庫)

カエサル〉覚醒――
魂なき戦闘機械の振るう強大かつ未知なる『力』を前に、達哉たちD.O.M.S.はかつてない窮地に追いこまれる。さらに冷たく無機質なその視線は、戦場である中央アジアのみならず、遠く離れた東京を見ていた。
思いがけぬ破局、拡大する戦火、傷つき消えゆく人々。故郷の危機を前に、若者たちはそれぞれの決断を迫られる。
そして己の命を燃やし尽くした苦闘の果て、達哉とアデリーナが見出した答えとは――?
空前絶後のSFミリタリーアクション、最終決戦!!


最終巻らしくスタートからクライマックス。
猛威を振るうラムダ・ドライバに立ち向かう、達哉とミハイロフ達のそれぞれの戦いが描かれる。ここでのハイライトはミハイロフ最期の一矢。フルメタはこうやって敵味方関係なく渋いおっさんキャラを大事にしてくれるから好きだ。
そして迎える最終決戦。
敵は主人公の分身とでもいう存在。舞台は東京調布。守るべきは家族。と状況だけでも最後の戦いに相応しい条件が揃っているのに、さらに最後の大盤振舞いとばかりに、ロケットに超巨大ASにここに来ての新型機投入にと色々ぶっこんできていて、作中の登場人物が「怪獣映画だ」と漏らす程のド派手な演出。こんなの燃えないわけがないじゃない。(ロケットの残骸どこ行ったとかベヒモス級が市街地に入った時点で周りが壊滅してるとかは、野暮だから言いっこなしで(←言ってる)
そんな超弩級の演出をしておきながら、決着がもの凄く泥臭いのがこのシリーズらしい。
こと戦術に関しては質実剛健を旨とした相良宗介イズムが継承されたような、これ以上なく“フルメタ”が感じられて感無量。……そういえば結局宗介とかなめは影すら見えなかったな。テッサは最後の最後にシルエットだけ見せてくれたのに。
ただ一つ心残りなのが菊乃の扱い。前の巻から正しくメインヒロインだったリーナがラストまで丁寧に描かれたのに対して、菊乃の描写が薄い。菊乃が平和な日本に馴染むのは無理な話だから結果には納得だけど、彼女の心中を語る機会があってもよかったかなと。達哉を成長させたもう一人の女性なだけに。
それでも大満足の最終巻だった。多大なプレッシャーの中で名作の名を汚すことなく、新たな熱い物語を紡いでくれた大黒先生に最大限の感謝を。