いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「穿天のセフィロト・シティ」平松ハルキ(電撃文庫)

穿天のセフィロト・シティ (電撃文庫)
穿天のセフィロト・シティ (電撃文庫)

72時間の《デッドタイム》――これが地表遙か上空に生きる樹層都市の人間に定められた命の残量だ。
全人類に等しく課せられた絶命へのカウントダウンを断ち、72時間までリセットする唯一の方法――それは《生命樹》から生まれる《罪獣(グリム)》を倒し、その骸に生る"禁断の果実"を口にすること。ただそれだけだった。
デッドタイムの急激な消費と引き換えに、特殊スキルを発動させるデバイス《罪匣》を操り、禁断の果実を収穫する者たち《罪獣狩り(グリムリーパー)》の如月キサキは、妹のユイハ、相棒のロウナと共に罪獣の領域へ踏み入る。そこで彼らが出会ったのは、命の残量が無限の少女で――。
それは人類の悲願“72時間の呪いからの解放”を目指す、恐るべき陰謀の幕開けだった。

うーん、何とも言えない佳作感。
作り込まれた世界観に戦略性のありそうなバトルシーンはいい感じ。世界観や能力等がどこかで見たことあるものになってしまうのは今のラノベ界隈では仕方がない。キャラクターも、平凡な兄(朴念仁)と優秀な妹(ツンデレブラコン)、兄の相棒の姉御肌(大食い)に保護される謎の少女(子犬系)とキャラが立っている。こちらも目新しさはないが。
難点を上げるとすれば、自分で作った設定を使いきれていないところか。
72時間のタイムリミットというのがこのシリーズ一番のオリジナリティある設定だと思うのだけど、戦闘中に単純な死の恐怖はあっても、時間切れの恐怖を使っているシーンが一度もなかった。緊張感を出すのにこれ以上ない設定なのに。
もう一つは主人公の戦い方。
苦戦するのは大変結構。逆転こそバトルの醍醐味だ(特に最近は無双ばかりで辟易しているので)。ただ、追いつめられた後に出てくる一手が「じゃあ初めからそれ使えよ」と言いたくなる。大技は最後にというのは特撮ヒーロー黎明期からのお約束といえばそれまでだが、そこに意味を持たせないと折角の苦戦してもその後の盛り上がりは欠ける。
それでも一巻らしく色々と風呂敷は広げていったし設定の使い方には改善の余地があるので、化ける可能性はあると思う。
そんな訳で、そこそこの完成度と拙いところに感じる可能性、かと言って際立った個性や光るものを感じられるわけでもない、新人賞作品ではないけれど「佳作」というイメージがぴったりの作品だった。



電撃文庫がこれを猛プッシュしている理由はちょっと分からない。俺ならこれより血翼王亡命譚を推したい。
むしろ猛プッシュによって期待値が上がった所為でイマイチな印象が強くなった気が(^^; これが新人賞の銀賞として出てきたら悪くない評価になった気がする。