いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神」絵戸太郎(MF文庫J)

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)

鬼柳怜生・享年17歳。彼の生涯は双子の姪をかばって儚く幕を閉じた……はずだった。何故か生き返った怜生の前には、長い紅髪に豊かな胸の、見目麗しい蛇女……蛇女!? さらに、彼女は怜生の「妻」を名乗り、彼は「神霊と結ばれ、世に新たな魔法技術を生み出す〈王〉になったのだ」と告げられる。
司るは――無から有を生み出し、死者蘇生すら可能な「命」の魔法則。
かくして、世界を一変させる力を手に入れた少年の、全世界と数多の“王”を相手にした覇道が幕を開ける!
第12回MF文庫Jライトノベル新人賞・最優秀賞受賞作。最強・最速・極悪の三拍子揃った凄絶過激な魔王の狂宴、堂々開幕!

流石は最優秀賞、完成度は高いし情熱も感じられるけれど、新人賞に求めているものはそういうのじゃないんだよなあ……。
現代+学園+異能、魔術をもたらす異人と特区で共存、凡人に見せかけた狂人の主人公、始めから4人という量に加えて質も備えたヒロイン陣、いい塩梅の中二感に派手な戦闘、独自の漢字多めで若干の読み辛さ。新人賞なのにとても懐かしい匂いがする作品だった……と言えば聞こえはいいけど、スマートすぎるというかMFらしすぎるというか新人賞らしい新鮮味がなかった。
と、まあ端的に言って合わなかったので、うがった見方になってしまって申し訳ないのだが、
全体的にライトノベルの新人賞をよく勉強しているなという印象を受けた。特にヒロインの性格やコミカルな掛け合いの雰囲気は、MF文庫の傾向や特色がよく分析されている。メインヒロインを夜々@機巧少女に寄せすぎな気もしないではないが。
賞を取るために応募先を選んだり分析することは悪いこととは言わない、というよりどんどんやった方がいいとすら思っている。そういうニーズに合わせる職人タイプの新人としてはかなりの技能を持っていると思う。
但し、これで売りたいなら最低5年は遅かった。こういう作品が流行ったのは今流行の異世界、その前の勇者・魔王、のさらに前の世代。その流れに逆らえるほどの魅力は感じられなかった。
新人賞作品としては大変に出来のいい作品だとは思う。ただ新人賞に求めるのは原石(独自の世界を持っている作家だったり、文章は滅茶苦茶でも何か光るもののある作品だったり)な自分とは相容れない作品だった。