いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「タイムカプセル浪漫紀行」松山剛(メディアワークス文庫)

タイムカプセル浪漫紀行 (メディアワークス文庫)
タイムカプセル浪漫紀行 (メディアワークス文庫)

「探しに行こうよ、タイムカプセル!」
考古学者である父の「遺跡ねつ造」事件で、同じ考古学者となる夢を砕かれた青年・英一。失意の日々を過ごす彼の前に現れたのは、10年前に亡くなった幼馴染の少女・明日香だった。
驚く英一をよそに、明日香は10年前と同じ屈託のない笑顔で話しかけてくる。
彼女は幽霊なのか。それともよく似た他人なのか。
困惑しつつも英一は、明日香と共に「タイムカプセル探し」の旅に出るが――。

ええ、泣きましたとも。
泣かせに来た時の松山先生は本当に恐ろしい。涙腺を刺激するツボを心得ている。コメディはまあ……うん……。
まず主人公の設定がズルい(ここでのズルいは誉め言葉です)
父に憧れ考古学者を目指していた大学生の英一が、父の不正発覚により夢も家族も友人知人も何もかも失った失意のどん底の状態。その境遇だけでも胸が締め付けられるのに、故郷で顔を隠して歩いたり、自分が悪いわけではないのにかつての友達や恩師に申し訳なさから自ら一歩二歩引いた喋り方になっていたり、そこかしこに彼の人の良さがにじみ出ているのがまた辛い。
また、彼の前に現れた10年前に亡くなったはずの幼馴染みの少女・明日香の存在もズルい。
彼女の主導で考古学に憧れたいた頃の当時の自分に何度も向き合うことになる英一の葛藤も息苦しいが、最もきついのが彼女が消えるタイミング。それまでずっと彼女の存在を訝しんでいて、やっとのことで打ち解けたところでって。上げたところで突き落す悪魔の所業じゃないですか。
そしてトドメは、
この物語の旅路の全て、英一が自ら離れていった支えてくれる人たちを取り戻し、生きる気力と夢を取り戻すピースになっていることがわかるラスト。明日香の想いが英一に届いた瞬間に涙腺が崩壊した。
気持ちよく泣けて、大団円で後味すっきり。