いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君に叶わぬ恋をしている」道具小路(富士見L文庫)

君に叶わぬ恋をしている (富士見L文庫)
君に叶わぬ恋をしている (富士見L文庫)

八年前の自分の誕生日、突然の事故で妻のあかりを亡くした伊吹。今でもその死が信じられず、あかりに会いたいと望む伊吹の前に、一匹の黒猫が現れる。
「そんなに奥さんに会いたいかい」「夢でも、嘘でも、幽霊でもいい」「そこまで言うなら、会わせてやろうか。幽霊に」
人と話すことが出来るその不思議な黒猫は、バーテンダーの伊吹に、自分を感動させるような酒をつくれば幽霊に会わせてやると言い――。
あなたにも、もう一度会いたい人はいませんか?

妻の死を受け止められず、幽霊でもいいからもう一度会いたいと願うバーテンダーが主人公。その彼の下に喋る黒猫が現われ、人を感動させる酒を出せば幽霊を呼んでくれるという。但し、その幽霊は奥さんとは限らない。彼は妻に一目合うべく酒を作りつづける。という物語。



困惑。
感想はこの一言。
店に来るお客さんや黒猫が呼ぶ幽霊たちとの触れ合いの中で、主人公の心の傷が癒やされていく物語を想像していたら、一切救いがなかった。
主人公ともう一人の心に傷を持つバーテンダーの男二人は、誰と語らっても心の傷が癒えることなく自分の殻に閉じこもり果てに自殺を計る(共に未遂だが)。その二人が救われないばかりに、彼らに想いを寄せる女性たちまで報われない。
それだけなら男たちの愛の深さに感銘を受けたり、逆に周りが見えていないことに憤ったり、ある種の感動があったのかもしれないが、ここでそれを許さず混迷を深める登場人物が一人。出てきた幽霊の一人・夏目漱石
バーに入り浸ってドカベンを読み耽り、小さいことで癇癪を起す。明治の文豪がとてもユーモラスに描かれている。この人だけ何故か一人明るく、見事に作品の雰囲気をぶち壊している。
黒猫が吾輩は猫であるの猫を自称しているから繋がりが無いわけではないが、この人を出す意味はどこにあった? 作者がこの物語で何を書きたかったのかも、この「異物混入」で分からなくなってしまった。
最後まで読み切っても、何だったんだろうと頭の中は「?」でいっぱい。