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「六道先生の原稿は順調に遅れています」峰守ひろかず(富士見L文庫)

六道先生の原稿は順調に遅れています (富士見L文庫)
六道先生の原稿は順調に遅れています (富士見L文庫)

中堅出版社に勤める文芸編集者の滝川詠見は、なかなか原稿が上がらないことに定評のあるベテラン作家・六道�懿(そう)馬の担当をすることに。さっそく詠見は六道のもとへ挨拶(と催促)に向かうのだが、初老だと思っていた先生はなんと憂いを帯びた見目麗しい男子で、しかも街に潜む怪奇を喰って創作をする妖怪だと知ってしまう。
出合い頭こそ驚く詠見だが、妖怪だろうと相手は作家。原稿をもらうため、取材代わりの怪奇事件に首を突っ込むことになり……?
編集女子と妖怪作家のコンビが綴る、不思議×出版お仕事物語!

安定と信頼の峰守先生の妖怪作品。相変わらず巷に氾濫しているあやかし作品とは下調べの質と量の違いを感じさせてくれる。
創作物なので想像だけで書くのが悪いとは言わないけど、誰でも知ってる妖怪しか出てこなかったし、妖怪である意味がない(人間じゃなきゃ何でもよかったみたいな)キャラ作りだとがっかりするので。その点での峰守作品には絶対の信頼がある。
この作品でも出てくる妖怪が普通と違う。
六道先生の正体を当てるのが一つの楽しみなのでネタバレはできないが、そのヒントとなる作中の図巻のラインナップが流石のマニアックさ。
それにただ単純にオカルトが出てくるわけではなく、人が妖怪や物の怪を生み出すメカニズムが語られ、その民俗学をかじる様な内容に知的好奇心がくすぐられるのと、その過程で必然的に人の心の闇が関わってくるので、人間ドラマに読み応えがある。
また、主人公の女編集者・詠見も六道先生も正義感の強い性格で、最後まで清々しい気持ちで読み終わられるのも良いところ。
編集者と作家が主人公であやかしでと今や飽和しているタイプの作品だけど、これは作者の味が出ていてとても面白かった。