いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「いすみ写真館の想い出ポートレイト」周防ツカサ(メディアワークス文庫)

いすみ写真館の想い出ポートレイト (メディアワークス文庫)
いすみ写真館の想い出ポートレイト (メディアワークス文庫)

祖父が遺した「いすみ写真館」を継ぐこととなった駆け出しのカメラマン・透。彼には不思議な力があった。“裸眼でファインダーを覗くと過去の写真を撮ることができる”――。
扱いを間違えれば、とても危険なその力を、お人好しの透は人助けのために、少しずつ使うことに決めた。
無くしたものを探すために。疑惑の真相を調べるために。消えた少女を見つけるために。
写し出された人々の笑顔と、時には涙に触れながら、彼はシャッターを切り続ける。

“裸眼でファインダーを覗くと過去の写真を撮ることができる”というよりは“裸眼でファインダーを覗くと過去が見える。さらに撮ることも可能で他人にも見せられる”が正確か。その能力を使って、カメラマンの青年・透が身近な問題を解決していく物語。
悪い話ではないが、中途半端な感は否めない。
とりあえず、能力が万能すぎた。日時が分かればその時間の過去を見ることが出来たり、目の痛みや恐怖を覚えるらしいのだけど、その割には構わずどんどん使っていく=回数制限がない。ミステリを求めているわけではないけれど、真実を見れば即答えに辿り着いてしまうのは物語として味気ない。
それに、この手の各話ごとに問題を解決していくタイプの物語にしては依頼者の描写が淡泊。主人公の透と祖父の弟子の五条さん、写真館を切り盛りする二人の関係の変化も書きたかったのだろうけど、そちらも中途半端。ミステリをする気がないならこの恋愛模様をメインに置けばよかったのに。SCENE3なんて格好の焚き付けの材料なのにも関わらず、何もなくて拍子抜け。
カメラのピントは合わせられても物語のピントが合っていない。どっちつかずという言葉がしっくりきてしまう作品だった。能力を使って問題を解決するのか、若い二人の関係の変化を書くのか、両立できない要素ではないとは思うけど、どちらに比重を置くのかだけは決めておいてほしかった。


あとこれは完全な個人の好みの問題なのだけど、
周防ツカサ先生は少し影があったりミステリアスだったりするヒロインを書いてくださいお願いします。そういうタイプのヒロインを書くと作品が輝くのに、それ以外のタイプのヒロインになると途端に作品が凡庸になる(あくまで個人の意見です)