いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「妖怪のご縁結びます。お見合い寺 天泣堂」梅谷百(メディアワークス文庫)

妖怪のご縁結びます。 お見合い寺 天泣堂 (メディアワークス文庫)
妖怪のご縁結びます。 お見合い寺 天泣堂 (メディアワークス文庫)

人々から恐れられ、あがめられていた妖怪も時は平成、絶滅の危機に瀕していた――。
由緒ある寺の末息子・恵留はある日、父のぎっくり腰で寺が代々請け負っている妖怪の結婚相談を代理で務めることとなる。とはいえ妖怪に関して全く無知で、補佐役の妖怪・白澤のシロにも呆れられる始末。そこで、同じ大学の美人な変わり者・軽井沢小町に助っ人を依頼することに。
奥手の天狗、強面のデブ猫妖怪、束縛の激しい雪女……一筋縄ではいかない彼らの縁結びはいったいどうなる!?

妖怪の結婚相談所のピンチヒッターをすることになった大学生の物語。



これはよいハートフルラブコメディ。
狙って作られたもの、可哀想な人が出て来てその人が何かの形で救われていく話では「いい話だった」と心温まるし、可愛い女の子が沢山出て来てドタバタしてお約束なシーンがテンコ盛りなコテコテのラブコメもそれはそれで大好物だ。でも本作はそういったわざとらしさがほとんど感じられないところが良いところ。
まず、そのハートフルさを出しているのが主人公の恵留。言動のあちこちから人の良さが滲み出ていて、その細やかな気遣いや妖怪たちへの真摯な姿勢、物事に対する一生懸命さに心が温まる。仕事をこなしていく中で、彼の成長が感じられるのもいい。
またラブコメの方は、縁組の話なのでラブ要素は当然あるとして、コメディの方は妖怪たちのキャラクター性から生まれている。絶滅の危機に瀕している妖怪の縁談という事で、ご当人たちは真剣にやっているのだけど、人間とは違う慣例や習性によって恵留たちを振り回したり本人が暴走したりする姿がコミカルで自然と笑顔になる。
そして何と言ってもヒロイン。
恵留の手伝いをすることになる小町が可愛い、かなり。普段は近付くなオーラ全開なのに、妖怪のことになると目の色が変わるギャップ。恵留とだけしか会話しない特別感(妖怪除く)。ゆっくり少しずつ心を開いていく過程。どこをとっても素晴らしい。二人して赤面しているところなんかは思わずにやけてしまう。そんな訳で、実のところラブ成分を主に供給しているのも妖怪たちではなく恵留本人だったりする。
自然に笑えて心も温まる、心地よい読書時間だった。まだまだ出てきた妖怪は少ないし、小町とのその後も気になるし、続いてくれないかな。