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「神名ではじめる異世界攻略 屍を超えていこうよ」佐々原史緒(ファミ通文庫)

神名ではじめる異世界攻略 屍を越えていこうよ (ファミ通文庫)
神名ではじめる異世界攻略 屍を越えていこうよ (ファミ通文庫)

平和だった高校が、ある日突然謎の霧に包まれる。竜崎時雨人は、取り残された憧れの先輩を心配するあまり校内に突入するが、そこはモンスターが跋扈する異世界の迷宮となっていた! 早速襲われピンチに陥る時雨人。しかし彼の放った攻撃が驚異的な力を発揮する。そう、この迷宮では、その者の持つ名前によって様々な力が付与されるのだ。竜と英雄、二つの最強の力を得た彼は迷宮攻略に乗り出すのだが――。死と裏切りに満ちたサバイバル・ファンタジー登場!


突如ダンジョン化した日本の高校を舞台に、竜崎時雨人(シグルド)が竜と英雄の力を持ち、霧島大牙(タイガ)が霧を操る虎になど、名前がそのまま力となる現代ファンタジー
親の付けた名前に苦しむ子こそが活躍する、佐々原先生によるDQNネーム救済ファンタジーか?と思いつつ読んでいたら、思いもよらない着地点に驚愕。救いなんてなかった。不穏な副題とあらすじのサバイバルは伊達ではなかった。
初めの内は、突然放り込まれるダンジョンRPG風な世界と、人があっさり死んでいく様子に主人公・シグルと一緒に翻弄されるが、次第に落ち着いてくると見えてくるのが、サバイバル状態でも協力し合えない高校生たち。食糧・水、安全地帯などの当然の理由もあるが、それ以上に権力や相手が気に入らないという理由で争う若者たちの直情的な行動が、絶望の色を濃くしていく。それでなくても先輩バカのシグルの猪突猛進に危うさしか感じないというのに。
そこまででもすでに救いがないストーリーだったものが、さらにダンジョンが作り出された目的に狂った動機、死への恐怖や極限状態で人の本性を曝け出させることにまで意味を持たせる悪趣味なダンジョンの仕組み、先輩との最悪の再開と、悪意が押し寄せて打ちのめされる。
ちょっとおバカな主人公と佐々原先生らしいヒロインの軽い口調で油断していたら、滅多打ちにされた。
絵師さんのあとがきに「祝一巻発売」とあるので、二巻の予定があるのだろうか。そうだったら今度こそ本当に異世界の物語になるわけだ。シグルにとってはさらに救いのない修羅の道になりそう。