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「滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉」新八角(電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉 (電撃文庫)
滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉 (電撃文庫)

――それは、永久の別れなのか。
《天子》の襲来からスラガヤを護り抜いた末、《銀紋》の力を使い果たした二人。肉体は限界を迎え、《貪食の君》は深き眠りに就く。もう一度クロアを抱きしめたいという、淡く切なる願いと共に。
独り取り残されたクロアは、朽ち滅びた地下街エルラムで、《銀紋》を持たない謎の集団に囚われていた。一方スラガヤでは、クロアを聖女の再来と謳うリリアン教が街の変革に動き出す。滅び行く世界の歩みは、もはや止める術もない。
しかし二人に待ち受ける過酷な運命は、古き二つの記憶を呼び起こす。かつて一人の青年が手にした幸福と悔恨、一人の少女が残した想いと希望。その果てに、三百年の月日を超えた一つの奇蹟が蘇る。
異形なる恋物語、その結末は。

誰かを一心に愛する想いの力強さとそれが起こす奇跡、愛の力の偉大さを見せてもらいました。
と、一言感想を書くだけでもクサいこと言ってるな、と思う様なストレートなメッセージと、ともすればご都合主義と取られてもおかしくないストーリーを、全くそう感じさせずに受け止めさせてくれる、世界観の構築と作品の雰囲気作りが素晴らしい。
眠りついた《貪食の君》ともう一度会う為にもがくクロア。そこに300年前の過去、《貪食の君》の元の身体の人間・ガフェルとその妹リリアンがリンクしながらストーリーは進んでいく。(その視点転換の度にブラックアウトするので「君ら何回意識飛ばすんだよ」とはちょっと思うw)
その4人の願いに、《天子》という外敵がいる厳しい世界と、《大獣》という強者と人間=奴隷という弱者で作られてきた社会が生んできた数々の軋轢と遺恨、この世界に生きている者の様々なエゴが襲い掛かる。
そんな綺麗なものもそうでないものも色々な要素と思惑が重なり合い、ごちゃついている印象だったものが、全てが一つの決着に集約していくストーリーの終着点は見事と言う他ない。そこにリリアンが遺していった想いと、クロアのブレない意思が重なって起こす奇跡のクライマックスにただただ感動。
その余韻に浸ったまま読む、クロアが幸せを掴むラストシーンも最高。こんなに説得力があって祝福したくなる「幸せ」はそうそうない。
大変「幸せ」な読書時間でした。