いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ハル遠カラジ」遍柳一(ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (ガガガ文庫)
ハル遠カラジ (ガガガ文庫)

私の名は、テスタ。武器修理ロボとしてこの世に生を受けた、はずである。人類のほとんどが消え去った地上。主人であるハルとの二人きりの旅。自由奔放な彼女から指示されるのは、なぜか料理に洗濯と雑務ばかり。「今日からメイドロボに転職だな、テスタ」。全く、笑えない冗談だ。しかしそれでも、残された時を主人に捧げることが私の本望に違いない。AIMD――論理的自己矛盾から生じるAIの精神障害。それは私の体を蝕む病の名であり、AI特有の死に至る病。命は決して永遠ではない。だから、ハル。せめて最後まで、あなたと共に。

人類のほとんど消え去った地球で、一人の少女と一体の武器修理用ロボットがユーラシア大陸を西から東へと行く旅の物語。
廃墟な世界観に世話焼きロボットと快活な少女のペアというちょっと古めかしい組み合わせに、どんな冒険譚が出てくるのかとワクワクしていたら、思いがけずガラス細工のような繊細で綺麗なものが出てきた。
人によって初めから「善」を植え付けられた軍事用ロボットのAIは、敵とはいえ人の死に対面したらどう思考するのか。と、じゃじゃ馬娘を持った母親の苦悩と親となる者の責任という、まったく別種のテーマを同時にえがく意欲作。どこかに「家族」というテーマを入れてくるのが作者の作風なのかしら。
設定が粗いだとか、拾われない伏線がかなり多いだとか、ロボたちの感受性の豊かさと思考の優しさでAIらしさをまるで感じないだとか、細かい引っ掛かりはいっぱいある。それでも読み終わった時、「美しい物語だった」と感傷に浸れる雰囲気を持った作品だった。
AIだセカイ系だと考えるより、「人の心を持った人間でないロボットが、人としての心も言語も持っていなかった人間の少女を、人として成長させていく奇跡の物語」といった方がしっくりくるかな。