いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「美酒処 ほろよい亭 日本酒小説アンソロジー」前田珠子他(集英社オレンジ文庫)

日本酒好き男子VSワイン好き女子による川中島合戦、開幕?スマホ在住の「桜の神様」に振り回された女子の奮闘? 日本酒好きな父の無茶振りに娘は? 居酒屋で酔いつぶれた謎の女を拾った男は? 女友達と飲んでいたらあれよあれよと扉が開いて? カタブツ女子が出会った国文科教授は無類の酒好きで? 人生の「酔」を凝縮した、日本酒をめぐる美味しい短編小説6編を収録。


日本酒にまつわる短編を集めたアンソロジー
酒が美味くなりそうな人情噺ばかりで(但し一編は除く)、晩酌しながら読みたくなる作品。
表紙がかなり謎。猫は出てくるが黒猫で、それ以外はまるで関係ない。別にいいけど。


以下各話ごと



『月に桂の花を見る』相川真
内容:堅物すぎて味方のいない大学事務員井口さんの話
元堅物(中居准教授)が現堅物(井口さん)を解きほぐすハートフルストーリー。
中居准教授の専門が日本文学で、井口さんを説く言葉も日本酒にまつわる知識も日本文学に絡めてされるので、どこか雅(みやび)。他の話と一味違う。
例えるなら、甘みと辛みのバランスがよく香り豊かな日本酒。



『櫻姫は清酒がお好き』前田珠子
内容:見つけたらご利益がある奇跡の桜
願いが叶うのに主人公は欲深くないし、櫻姫との会話も軽快で、爽やかでコミカルな話。
例えるなら、飲み口は軽く後味も爽やかな初心者向けの日本酒。



『恋する川中島合戦』桑原水菜
内容:出来る女な女性が祭りで出会った男性に抱いた淡い恋心
相手は脈無しで、本人は恋しても失恋してもさばさばしているので、恋バナよりも信玄と謙信の薀蓄の方が印象に残る話だったという。
あと「野田君頑張れ!」
例えるなら、フルーティな香りと甘みで後味はスッキリな日本酒。



『無我夢中』丸木文華
内容:たまたま合った高校時代の同級生と3人で女子会
飲み会女子トークが生々しくえぐい。しかも、終わりが修羅場な上に投げっぱなしで後味最悪。
人によってはこういう話が好きな人もいるのだろうけど、他が後味のいい話が揃っているだけに、これだけが酒が不味くなる話でえらく浮いている。
例えるなら、後味が悪く悪酔いして次の日に残りそうな醸造アルコールたっぷりな安酒。



『真夜中のおでんと迷い猫』山本瑤
内容:行きつけの居酒屋で酔い潰れた女性を押し付けられる
味噌汁&おでんで、飯テロ力No.1。
イケメン4人のところに転がり込んでくる空元気幸薄女性。女性作家らしい作品だな、と。男性作家なら、朴念仁男のところに言い寄る美少女/美人4人になる。
心の傷の舐め合いみたいになって優しいけれど口当たり良いだけの話かと思いきや、オチはなかなか現実的でハッとさせられる。
例えるなら、香りは甘いのに飲んでみると端麗辛口な日本酒。



『父の日』響野夏菜
内容:月に一回、父親が晩酌をしに来るようになったOLの話
良いのか悪いのか、初めから状況に違和感があったので途中で気付いてしまった=父親の秘密
昭和の時代の寡黙な頑固おやじを味わえる。ちょっとうるっとさせた後の去り方が美しく読後感がいい。
例えるなら、燗が合う昔ながらの日本酒。