地球温暖化が進行し大規模な海面上昇が進んだ24世紀。大企業HA〈ヘブンリー・アンセム〉が提供する安心安全な〈シティ〉での高度に管理された生活を享受できるのは一部の富裕層だけで、その他の地域では文明が後退し医療や教育へのアクセスも難しくなっている。しかし物好きで偏屈な博士は助手であるロボットのマリアIIと古いクリニック戦で海域を移動し、さまざまな理由で治療を必要としている市井の人びとを診察する。
海面上昇で陸地が大きく減少した未来。大企業が世界を牛耳り、富裕層とそれ以外で貧富の差が極端に開いた社会構造になっていた。そんな世界で、おんぼろクリニック船で世界を巡り市井の人間の治療を行う偏屈な博士と助手ロボットの物語。短編連作。
海中でずっと働けるようになる手術や、他人の体に自分の脳を乗せ換える手術。疲れなくなる禁断の手術に、ついにはロボット化まで。博士が行う手術は実に未来SF的であるのに、手術を受けた者たちが紡ぐ物語は家族愛や自己愛、友愛という様々な『愛』の話。その方向性は様々で、自己犠牲に泣きたくなる話もあれば自分勝手で自業自得な話もあり、そのどれもがひどく人間臭い。
どんな時代になっても人間は人間、愚かで美しい。
そんな結論になる話なんだろと思っていたら、最終話でどんでん返しが。
そこまではあくまで『人間』の話をしていたのに、最後にAIの成長、AIと人間の境目の話を持ってくるとは。それでいてちゃんと愛の話だ。『愛』をテーマに綴られてきた連作の締めとしても、SFのラストとしても見事で綺麗な終わり方。
あとがきを入れても200ページちょっとしかない薄い本なのに非常に満足度の高い一冊。
