「秋期限定栗きんとん事件 上」米澤穂信（創元推理文庫）
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。――それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい……シリーズ第三弾。
待ちに待った秋。もう出ただけ満足ですｗ
今回は完全分業制。日常の謎解き担当の小鳩くんと大きな事件担当の小山内さん。この見事な割り振りのおかげで二人の“らしい”姿が見られて懐かしい気分に。・・・にしてもホントいつも通りだなぁ。バラバラの二人、それぞれに彼氏彼女が。と、青春小説としては鬱展開のはずなのに、それを全く感じさせない小鳩くんと小山内さんに安心しつつも少し苦笑い。
まずは小鳩くん。
新しい彼女そっちのけで推理思考に耽る姿も、常に小市民たらんと努力するところが小市民らしくない姿も、相変わらず。そのおかげで日常ミステリが楽しめるんだけど。中でも『まったくで的外れ、一切必要のない情報』の一節はあまりにも小鳩くんらしくて不覚にも笑ってしまった。わかってはいたけどそんなはっきりと思わなくても。
まあ小鳩くんの場合は相手も相手なので何の同情も湧かないが。ただ、もう一組の方が・・・
狼に惚れてしまった熱血少年が可哀想で涙がｗ
小山内さんの本性を知る読者には、狼を目指す小市民が小市民の皮を被った狼の掌の上で転がされているようにしか見えない。加えて、彼以外でも話が進むにつれ濃くなる事件の裏にちらつく小山内さんの影。小山内狼の暗躍、なんて待ち望んだとおりの素晴らしい展開なんだろう。申し訳なさそうな顔をしながら心では楽しんでいる小山内さんの顔が目に浮かぶよう。
やっぱり面白い小市民シリーズ。今回は事件の外にいた小鳩くんが本格的に動き出す下巻が待ち遠しい。
