いつも月夜に本と酒

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花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

「花守の竜の叙情詩」淡路帆希富士見ファンタジア文庫
花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

隣国エッセウーナによって制圧された、小国オクトス。囚われの身となったオクトスの王女エパティークは、絶望の中にあった。
だがある日、そんなエパティークの前に、エッセウーナの第二王子テオバルトが現れ、告げた。
「これから、俺と君とで旅に出る。捕まれば、命はない」
その「旅」とは、願いを叶える伝説の銀竜を呼び出すというもの。呼び出すために必要とされるの生贄が、エパティークなのだ、
王位継承争いで帰る場所のないテオバルト。囚われ、生贄となるエパティーク。支配した者と、された者。お互いを憎み、反発しながら、孤独な二人の長い旅が始まる――。宿命の愛と冒険の物語。


一方で切なく美しく、一方でやるせなさが残る二つの面を持ったファンタジー
一つはエパティークことアマポーラ視点。無知で高慢なお姫様の人としての成長が描かれる。
テオバルトの厳しい言葉と偽装のためにつれて歩くことになる幼きエレンの存在に、戸惑いながらも自らを律し変わろうとしていく。その中で芽生えていくエレンへの愛情が彼女の強さを、テオバルトへの恋心が切なさを感じさせてくれる。
一方のテオバルト視点は守るべき者のための戦い物語。
初めは置いてきた妹への焦燥感とアマポーラの無知さやトロさへの憤りばかりの彼だが、変わっていくアマポーラに戸惑いながらも惹かれていく。だが、守るべき者二人のために彼が出した答えの先にあるものは信じたくない現実。あまりに救いがない結末に感じるのは悔しさとやるせなさ。
どちらかといえばテオ寄りで読んでいたので後味は苦めだったが、旅での二人の変化や小屋での束の間の幸せは温かいものを残してくれたし、最後のアマポーラの歌に籠められたに想いには涙腺が刺激された。
二つの別種の感動が一冊で綺麗にまとまった良質ファンタジーだった。