いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「カラクリ荘の異人たち4 〜春来るあやかし〜」霜島ケイ(GA文庫)

カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~ (GA文庫)
カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~ (GA文庫 し 3-4)

「幽霊を見たことがある?」
クラスの、それほど親しくもない男子に問われた太一は「ある」と答えた。
なにしろカラクリ荘に来てからというもの、幽霊どころか妖したちの絡む色々な事件に巻き込まれてきたのである――。もっとも、幽霊話はともかく、人との距離がうまく掴めない太一にとって、なぜ彼がそんな話を自分にしてきたのか皆目見当もつかない。だが、理由を訊けぬままに別れた後も、自分でも不思議に思うほど、その事が気にかかる――。以前の自分であればそんな事はなかった。なのに――なぜ!?
河原町に春風が吹き、少年の心にも、小さな春が訪れる……。ハートフルご町内妖怪奇談第4巻!!

夏から始まり、秋冬と続いてきた物語もこの春で最終巻。


あったかかった。泣きそうなくらいあったかかった。
ただ「優しい」とは違う、「温かい」だとちょっと硬く感じる、ひらがなで「あったかい」が一番しっくりする、そんなお話だった。


雪解け、蕾のほころびの春のイメージと太一の心が動きが見事にシンクロしていた。
新たな友達や妖怪たちとのふれあいを通じて、太一の漠然とした悩みが解消され、心の奥底にある傷が癒えていくのが感じられ、心がじんわりとあったかくなる。そこにもう一押しとばかりに各章のエピローグ部分にある高坂が、サトリが、タカハシさんの太一にかけた言葉にグッとくる。そしてついに見せた太一の喜怒哀楽に涙が出そうになった。初めの頃の太一を思うと、この巻はどのシーンでも泣けそうな気さえする。
春といえば采奈の一途な想いにもやっと春が。思い返せばこの娘が太一の心を溶かした最大の功労者なんだよなぁ。空回りばっかりだったけど、届いて良かった本当に良かった。采奈はこの先、何度も転んで空回って太一すらも呆れさせながら、太一の隣で幸せそうに笑ってるんだろうなぁ。
これで終わりなのは寂しいけれど、太一がマイナスの位置からようやくスタートラインに立てて、家族とも采奈とも幸せな未来がいくらでも想像できる終わり方は、読んでいるこちらまで幸せになれそうな最高のハッピーエンドだった。


太一が一つずつゆっくりと心を取り戻していく物語。心の底から出会えてよかったと思える素敵な物語だった。
しばらくしたらまた1巻から読み返そう。