いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「月光」間宮夏生(電撃文庫)

月光 (電撃文庫)
月光 (電撃文庫)

退屈な日常から抜け出したいと思いながら毎日を過ごすシニカル男子・野々宮。
ある日、彼は美人で成績優秀、ゴシップが絶えない謎多きクラスのアイドル・月森葉子のノートを拾う。そんなアイドルのノートからはみ出す紙切れには彼女のイメージとは程遠い言葉──「殺しのレシピ」という見出しが書かれていた。思わず持ち帰ってしまった彼は翌日、月森に探し物はないかと尋ねるが、彼女からは「いいえ」という返事。そして数日後、彼女の父親が事故死する……。
第16回電撃小説大賞《最終選考作》、ついに登場!


1枚のメモとクラスメイトの父の死から始まるサスペンス。
気障な主人公・野々宮とミステリアスな彼女・月森が作り出す、少しだけ甘さが混じった緊張感のある雰囲気が堪らなくいい。
そして二人のスリルのある会話に惹かれる。彼女の殺人を疑う彼と、何が狙いか彼に気に入られようとする彼女の、互いに相手の隙や本心を伺うやり取りは、ミステリのようでもあり、完璧な相手を負かす戦いのようでもあり、小悪魔な美少女との駆け引きを楽しむ行為のようでもある。
また、落とし所が難しそうな話であるのと、後半に出てきた第三者の刑事が雰囲気を壊しかけたので(名前もウケ狙いだったし)ラストが不安になったが、これも杞憂だった。
野々宮は野々宮のままで、そして月森葉子が最後まで月森葉子であり続けたラストは、雰囲気を損なうことなく最後まで作品の、彼女の魅力に酔いしれることが出来た。


面白かった。
第16回電撃小説大賞ではお気に入りの「蒼空時雨」(MW文庫)と双璧、電撃文庫から出た作品ではダントツ。個人的には大賞でもいいくらい。この作品が何も受賞出来なかったのか不思議でしょうがない。改稿の末にここまでになったんだろうか?




月森がワイン、日常の象徴だった宇佐美がオレンジジュースだとすると、未来さんはキレのあるビールだろうか?クセのある芋焼酎だろうか? 悩むところだ。