いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「吐息雪色」綾崎隼(メディアワークス文庫)

吐息雪色 (メディアワークス文庫)
吐息雪色 (メディアワークス文庫)

ずっと妹と二人で生きてきた結城佳帆は、ある日、私立図書館の司書、舞原葵依に恋をする。真っ直ぐな心で、彼への想いを育んでいく佳帆だったが、葵依には四年前に失踪した最愛の妻がいた。
葵依の痛みを知った佳帆は、自らの想いを噛み殺し、彼の幸せだけを願う。届かなくても、叶わなくても、想うことは出来る。 穏やかな日々の中で、葵依の再生を願う佳帆だったが、彼女自身にも抱えきれない哀しい秘密があって……。
喪失と再生を描く『雪』の青春恋愛ミステリー。

舞原一族を中心とした愛の物語第四弾。
舞台はデビュー作『蒼空時雨』から3年後の八王子(ちなみに二作目『初恋彗星』からは5年後(星乃叶27→32))




じっくり二度目を読み返していたらすっかり寝不足になってしまった。


初読みの後半までは『初恋彗星』との繋がりで星乃叶が社会復帰できるまでに回復していたことには涙が出そうになったものの、肝心の佳帆の物語は泣き所はないし恋愛のドキドキ感も薄く、淡々と読み進めるだけだった。
それが一つの事実が判明すると景色が一辺。それまでなんとなしに語られていた家での会話の全てが意味を持って襲い掛かってくるような感覚だった。
そして二度目、事実と想いを知って読み返したら半分は泣き所じゃないか。それに恋愛の高揚感もないはずだ、これからなんだから。
それにしても見事に引っかかったなぁ。
このシリーズは『嘘』が一つのテーマで、どの作品にも何かしらの仕掛けがあることは分かっていたはずなのに。違和感もそこかしこにあったのに。でも、あの衝撃と胸を締め付ける切ない想いを味わえたから気持ちよく引っかかれて良かったのかも。
きっかけは『嘘』だったけど、佳帆の動こうとする勇気が佳帆と葵依二人の凍った心を溶かすタイトルに似合わず温かい物語だった。傷だらけだった二人に笑みがあり、未来に想いをはせられるラストは何度読んでも温かくて泣きそうになる。やはりこの作者の紡ぐ物語は好きだ。
一度目は衝撃を二度目は涙腺を刺激する充実した読書時間だった。