いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「命の後で咲いた花」綾崎隼(アスキー・メディアワークス)

命の後で咲いた花
命の後で咲いた花

晴れて第一志望の教育学部に入学した榛名なずなだったが、大学生活は苦労の連続だった。
それでも弱音を吐くことは出来ない。彼女には絶対に譲れない夢がある。何としてでも教師にならなければならない理由があるのだ。
そんな日々の中、彼女はとある窮地を一人の男子学生に救われる。寡黙で童顔な、突き放すような優しさを持った年上の同級生。二つの夢が出会った時、一つの恋が生まれ、その未来が大きく揺れ動いていく。


たとえば彼女が死んでも、きっとその花は咲くだろう。絶望的な愛情の狭間で、命をかけて彼女は彼のものになる。
愛と死を告げる、新時代の恋愛ミステリー。

青森から新潟の大学に入学した榛名なずなの拙い恋模様を描いた第一部と、その相手・羽宮透弥の恋を描いた第二部の二部構成。お涙頂戴の不知の病もの。



予想通りに、いや予想以上に泣いてしまった。
第一部は貧乏女子大生の生活が淡々と綴られる。なので榛名の恋に対する不器用さが可愛らしいと感じたりとか、過度に避けるのに突き放すわけではない羽宮の態度のちぐはぐさの裏には何があるのか勘繰ったりする程度。
本番は第二部の羽宮パート。
例によってちょっとしたトリックがあるのだけど、作者がこの手法を使うのは初めてではないので仕掛けには早々に気付いた。でも気付いてからが本当の仕掛けだった。
榛名の死に直面している状況だけで泣けるのに、そこに読めば読むほど第一部・なずなパートの羽宮の想いが去来する。大学で彼がどんな気持ちで榛名を助けたのか、顔を合わせる度に何を見ていたのか。その心中を察してしまうと涙が堪えられなくなった。
そんな中で強烈に印象に残るのが榛名の笑顔。どんなに辛くても苦しくても彼の前では笑っている彼女の強さは、痛々しくて見ていられなくなる反面、読んでいるこちらが勇気を貰えるような不思議な力がある。最後までぼろぼろに泣かされるけど、エピローグは前を向いて未来を想えるラストで笑顔で終われる。この希望と笑顔は常に笑っていた榛名がくれたものだと思うと、心のどこかが少し温かくなる。
読み終わってから気付いたのだけど、各話のタイトルは自分ではなく相手の言葉になってるのか。第一部の各話のタイトルが第二話第三話と段々違和感を覚えるようになる理由はそこか。そうすると第一話のタイトルは……。
泣き笑いのラストシーンと合わせて、明るい未来が想像出来て嬉しい。だからこそ長寿とまでは行かなくても、なずなが人生を全うしてくれることを切に願う。