大アラファトラ山脈でアルデラ神軍の大軍と向かい合う、疲労困憊の帝国軍。勝ち目の見えない状況で、イクタは起死回生の奇抜な作戦を決行する！
そしてかたや、帝国軍を攻めるアルデラ神軍の中に、ひときわ目を引く一人の軍人がいた。彼こそ、『不眠の輝将』と讃えられる英才。強敵としてイクタの前に立ちはだかる男であった――。
不世出の二人が激突し、息詰まる戦いが展開される。果たして結末は……!?
話題の本格派ファンタジー戦記、ますます盛り上がる第3巻の登場！
絶望的な戦力差の中、生き延びる為に死力を尽くす緊張感ＭＡＸの撤退戦。
読み終わった時に真っ先に出てきたのは安堵だった。緊張から解き放たれたことと、もう一つは一人も欠けなかったこと、今回は。
いや、今までも欠けたことはないけど前回の後半から容赦のない展開が続いているので、いつ誰が欠けてもおかしくない空気なんだよね。マシューなんかはフラグっぽいのが二度もあったから特に心配で。
さて、今回のイクタは怠惰を信条にする彼らしくない泥臭く血生臭く必死な姿の連続。それでもどうしようもなくヒーローだった。
圧倒的劣勢を覆していく頭脳と、時には自分が出て道を切り開く思い切りと勇気だけでもその素質は十分なのに、そこにヒーローに不可欠な一つの要素・ライバルまで登場する。それも同タイプ戦略家。こんな戦況で出さんでも思わずにはいられない強敵だったが、それを乗り越えて勝利を掴むからこそ盛り上がるのも確か。
それにヤトリとのやり取りも。
これまでも何度も息の合ったところを見せてきた二人だが、今回は格が違った。「友情」や「恋愛」なんてものはとうに飛び越えて、ただの「信頼」でも生易しいと思う様な関係を見せつけてくれる読み終わった後に見る表紙のヤトリの頼もしさは格別。
勇気とライバルと戦友、これだけ持っていてヒーローと呼ばずしてなんと呼ぼう。
また、戦争の描写も前回同様容赦がなかった。
戦記物で、しかも多少の犠牲は厭わない戦い方をしているのに（強いられているといった方が正しいか）下士官の死を描くのは、個を大事にしてくれるのは嬉しいと思う反面ある意味卑怯だ。当然のことながら、上官下士官関係なく一人一人に人生があることをこうやって示されると胸が痛い。
ギリギリの緊張感で手に汗握り、イクタの活躍に熱くなり、突きつけられる現実に切なくなる。３巻も文句なしで面白かった。
ちょっと残念だったのは、展開的に無理だったのでコメディパートがなかったことか。
あ、一応最後にあったか。大尉殿にはご愁傷様としか言いようがないが、２巻連続の活躍を見ているのでレギュラー化は嬉しい限り。おっさんが活躍するライトノベルにハズレなしだと思っているので、今後もいい味出して欲しい。
