いつも月夜に本と酒

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「翼の帰る処4 ―時の階梯― 下」妹尾ゆふ子(幻冬舎コミックス)

翼の帰る処 4 ―時の階梯― 下
翼の帰る処 4 ―時の階梯― 下

《黒狼公》をキーナンに譲り、待望の隠居生活に突入した過去視の力を持つヤエト。しかし、残念ながら隠居とはほど遠い仕事量に忙殺される日々を送っていた。
そんな中、ターンの預言者・ウィエナに導かれ、ヤエトはジェイサルドらと共に世界の罅を塞ぐ手がかりを得るため、砂漠の深部・シンリールへと赴く。
数か月後、ようやく都へと戻ったヤエトだったが、都では第七皇子が反旗を翻し、まさに戦いの火蓋が切られようとしていて――。


前半は地下探索から迷宮都市へ。
これ以上なくファンタジーな内容だったのに「えっちらおっちら」とか「ひーこらひーこら」という、似つかわしくない擬音が聞こえてきそうなヤエトに苦笑い。冒険という単語がこれほど似合わないファンタジーの主人公も居ないだろう。
ヤエトがそんな慣れないアクティブな行動をしているのは、世界の罅を塞ぐ方法を探るため、言わば世界の行く末を決めてしまうストーリー上重要な話なのだけど、読んでいて気になるのはどうしても人間の方で。
ヤエトの呪い先の多さに笑ったり、ジェイサルドのさらなる人間離れにヤエトへとは違う苦笑いが出てしまったり、預言者とヤエトの意外な関係性には切なさの強い感動があったり。最後のそれには、無意識に女性を落とすヤエトの新たなパターンに感心もしてしまったがw
後半は一転して都に戻って人と人との戦争へ。
その転換点、都へ行くための迎えがルーギンだった時の安堵感と喜びはなんと表現すればいいんだろう。それまでのジェルサイドや他の人達としている会話と全然違う、随所に冗談が挟まる気心が知れた会話。そう、これを読みたかった。それに一緒に来たシロバも。愛嬌ある行動といい挿絵といい、この愛くるしさには敵いません。
ただ、そこからの展開が駆け足なのがちょっと物足りなさを感じる。異界から帰ってきたヤエトが浦島太郎状態で、しかも相変わらずの体調で頻繁に意識を失い、その間に物事が進むから仕方がないと言えば仕方がないのだが。……ヤエトに浦島太郎役は似合わないな。玉手箱を開ける以前に宴会に招かれてもすぐ帰ると言い出しそうだ。
そんなわけで、ちょこちょこと口を出すだけヤエトだったが、身近な人達だけじゃなく皇族の方々もヤエトの扱いが他と同じになっていることには笑いを禁じ得ない。まあ、ふらっふらの状態であんなに頑張られちゃうとねえ。最後に微デレも頂いちゃいましたし。微かとはいえ皇女じゃなくてヤエトの方からデレるとはね。
ヤエト先生の気苦労譚、今回も堪能。
次で最終巻か(多分上下巻だけど)。寂しいが仕方がない。世界の行く末にはあまり興味がないが(おい、人間関係の着地点は非常に気になる。ヤエトはちゃんと責任を取ってくれるのか?