いつも月夜に本と酒

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「八百万の神に問う3 秋」多崎礼(C★NOVELSファンタジア)

八百万の神に問う3 - 秋 (C・NOVELSファンタジア)
八百万の神に問う3 - 秋 (C・NOVELSファンタジア)

争いなき楽土に、手を伸ばさんとする隣国・出散渡。神に守られしこの地でさえも、時の流れに逆らえぬのか、じわりじわりと楽土は侵蝕されていき、さらに『真の楽土』にまで迫ろうとする彼らに、天路の人々は為す術をほとんど持たぬ。
だが――
伝説のシン音導師ことイーオンが、その流れに立ち向かおうとしていた。


2巻の衝撃のラストの続き、ゴノ里の防人トウロウこと出散渡(ディセント)の軍人ライアン・ハートの話は、出生ゆえに人の愛、温もりを知らない二人の軍人の物語だった。
色々な視点から少しずつ明かされていくトウロウの過去から出てくるのは相手の気持ちに聡く、自分の気持ちには鈍い、似た者同士の二人の青年。当然のようにすれ違う二人の過去に、残酷な再開に、そこからトウロウの出した答えにと切なさが募る。
と、そちらの物語も十二分に読ませる話だったのだが、平行して語られるもう一つの話が強く印象に残った。
トウロウの過去が明かされる過程で出てきたのは意外にも、イーオンとの繋がり。ここにきて初めて語られるイーオンの過去が驚きなら、現在のイーオンの状態は衝撃。「夏」で張られた伏線はここまでのものだったのか。
その過去を語られた二人、過去を癒やす楽土でそれを良しとしないトウロウとイーオンの語らいは狂気を感じて背筋が凍る。そして出された答えにも……。
そんな二人の狂気を納めたイーオンの師・ミサキ音導師がいなかったらと思うとまた背筋が。
全体的に物悲しくなる話で、シンが吹っ切れて未来が見えた「夏」と違って別れの気配が色濃くなる、実りの「秋」ではなく冬支度の「秋」だった。
どんな「冬」を迎え、ナナノ里の人々、主にシンはどんな顔で「春」に向かえるのか。最終巻が待ち遠しい。