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「未来線上のアリア」綾崎隼(メディアワークス文庫)

未来線上のアリア (メディアワークス文庫)
未来線上のアリア (メディアワークス文庫)

惑星アルチアまであと六日。航行中の航宙艦でコールドスリープから覚醒した先遣隊、医務官リブカは、艦長の死と酸素発生器の異常を知る。このままでは先遣隊の八名が全滅してしまう。酸素が足りない以上、乗員数を削減するしかないが、生死を問う投票が行われれば、最愛の女性アリアが犠牲として選ばれるのは確実だった。アリアを救うため、リブカはあらゆる手段を模索するが、すべては無情にも宇宙の闇に飲み込まれ…。星々の残響が紡ぐ、新時代の恋愛ミステリー。


航宙艦の酸素発生器の故障により、時間内に二人ないし三人犠牲にならないと目的地までの酸素が持たない。誰を犠牲にするか、そんな極限状態での人間模様が描かれる。
綾崎作品初のSF作品で、しかもかなり特殊な環境下での話とあって初めの内は読みにくさ取っ付きにくさが少しある。でも、設定と状況を理解し、いつもと変わらぬ作風・恋愛ミステリだと分かると、あとはあっという間に最後まで。
綾崎さんの男主人公は、自分に無頓着だったり自分の幸せは諦めているようで、内には熱いものを秘めているタイプが、書きやすいのか好きなのか多い。本作の主人公・医務官リブカもその例にもれず、解答編が露骨にミスリードだったことも相まって、彼の行動の真意は読みやすい。読めてしまうから切ない
……と、思ったんだけどなあ。
そうか、不器用過ぎる人はもう一人いたのか。それで表紙がこの三人なのか。またしてもやられてしまった。
読者的にはそれでいいのか?と思う面はあっても主人公の想いはある程度成就したが、その一人を思うと心が沈む。
道中はSFでもいつもの綾崎さんだと思って読んでいたけど、珍しく後味苦めな話だった。