いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「思い出のとき修理します4」谷瑞恵(集英社文庫)

思い出のとき修理します 4 永久時計を胸に (集英社文庫)
思い出のとき修理します 4 永久時計を胸に (集英社文庫 た 81-4)

不仲に思えた両親の絆、亡き妻への秘めた思い……時計店には今日も人々の「思い出」が持ち込まれる。そんな中、秀司が作ってくれているドレスウォッチの完成が近いと聞き、喜びとともに複雑な気持ちになる明里。秀司の元に、スイスの時計工房から手紙が届いているらしいからだ。ともに商店街で暮らす未来を夢見つつ、本当は秀司がスイスで修業を続けたいのではないかと悩み……。ついに完結!

ああ、終わってしまった。
幸せな時間はいつもあっという間だ。


最終巻でもこれまでと変わらない。商店街での静かな日常を描きながら「思い出の時 修理します」の看板に魅かれて飯田時計店を訪れた客の悩みを時計と共に解決していく連作短編形式。
違ったのは、一話一話明里に「結婚」を意識させる話だったこと。客たちの悩みに触れながら、自分の夢と秀司の夢、二人の未来について葛藤する明里の姿に、この二人なら別れないだろうと思いながらもハラハラしっぱなしだった。
それともう一つ。二人に負けず劣らずのお節介な男性が出てきたこと。
秀司でもヤキモチ妬くんだ、これが想像以上に嬉しい出来事だった。懐が深くて若者らしさがあまりなく、明里視点がメインなので内心を知る機会も少ない秀司が見せた強烈な感情で、彼の想いの強さを初めて知れた気がした。
そんな二人が出した答えは……。
間違いなく困難な道だけど、一度大きく傷ついている者同士がようやく本音で語り合って出した答えだもの、きっと大丈夫。それに明里のちょっとのお節介と秀司の洞察力と二人の優しさで、何人もの人の思い出を修理して、これから先の夢や希望を持たせてきた二人だもの。今度は自分たちの未来も掴み取ってくれる。大した根拠もないのに何故か二人の幸せな未来が確信できる、そんなラストだった。
終わってしまうのは悲しいけれど、ダラダラ引き延ばさずに完結してくれたのは良かったと思う複雑な気分。二人のおかげで4巻通して幸せな読書時間でした。