いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「活版印刷三日月堂 星たちの栞」ほしおさなえ(ポプラ文庫)

([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 (ポプラ文庫)
([ほ]4-1)活版印刷三日月堂 星たちの栞 (ポプラ文庫)

古びた印刷所「三日月堂」が営むのは、昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心を解きほぐされていくが、店主の弓子も何かを抱えているようで――。

とても良かった。何度も涙腺を刺激してくる話だった。
読み始めてまず印象に残るのが、普段本よ読む時に何気なく使っている「活字」という言葉の本当の意味。今我々が読んでいるものは広義では活字で間違いないが、狭義の意味と「活字」の礎となったものの歴史を学べるのが興味深い。
それに活字に対する表現も面白い。文字が厚みや重さがある物質という言い回しも良かったが、単純に活字を「拾う」という表現に実体験が伴っていたのが印象深かった。
物語としては、何かに困っている人や人生に躓いている人がふと立ち寄った店で救われる、というよくあるジャンル(最近は特に多い)。店の種類は数あれど、店は与える側で客は受け手という位置関係は変わらないのが普通だが、この作品は一味違う。
この作品ではお客さんと店主の弓子が一緒になって問題解決のために知恵を絞って、一緒に成長したり一歩前へ踏み出すための元気を貰ったりしている。その一体感が共感呼んで、涙腺が緩い登場人物たちに貰い泣きしてしまうのが涙腺を刺激してくる理由。最大の魅力は再開したばかりの活版印刷店の“至らなさ”にあると思う。
タイトルの活版印刷に惹かれて買ってきたが、予想以上に心に残るいい作品だった。