いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「その10文字を、僕は忘れない」持崎湯葉(ダッシュエックス文庫)

その10文字を、僕は忘れない (ダッシュエックス文庫)
その10文字を、僕は忘れない (ダッシュエックス文庫)

宮崎菫は一日に10文字しかしゃべれない。それ以上は声にならないのだ。スケッチブックで会話をする彼女は教室で浮いた存在だった。けれど不器用でも懸命に対話しようとする姿と、誰よりも純粋な心に、俺は惹かれていった。
図書館で勉強を教えてくれた時、横顔が気になって勉強どころじゃなかった。プールで見た水着が可愛すぎて、息が止まるかと思った。初めてケンカをして、初めて仲直りのキスをした――。
「ありがとう」も、「ごめんなさい」も、「嬉しい」も、「大好き」も。 大切なことは10文字でみんな伝えられるって、そう思ってた。
でも、菫が背負う過去の痛みも、菫の隣にいることの意味も、俺はわかっていなかったんだ――。

一日に10文字しか喋れない薄幸の少女と無気力少年の恋の物語。
甘酸っぱい! こっぱずかしい! それはもうピュアなラブストーリーだったのでオジサン赤面ですよ。
偶然の出会いをきっかけに、無気力だった少年は遅刻やサボりを止め、筆談ゆえにコミュニケーションが苦手な内気な少女は人と関わるための勇気を出し始める。そんなお互いに良い刺激をし合った二人のゆっくり一歩ずつ恋を育んでいく過程が丁寧に描かれていく。
特にすれ違い始めてからの負の感情も丁寧に描かれているのが好印象。最近はこういうマイナス面はサラッと流してしまう作品が多いからなあ。すれ違いや喧嘩も恋愛ものの醍醐味だというのに。
そんな、思わず「青春だなあ」と呟いてしまいそうな王道かつ丁寧な作品で大満足だったのだけど、ただ一つ疑問がある。
10文字である意味はあったのか?
印象的な10文字の言葉が出てくるものだと楽しみにしていたのに、特に無かったので肩透かしを喰らった気分が少々ある。それにヒロインが一言も喋れなくても物語の内容はそう変わらないような気がするくらい、10文字縛りの印象が薄い。その一点だけがどうしても腑に落ちない。
それでも良作な恋愛青春物語なのは間違いないので、これから読む人には「10文字」は気にせず純粋に楽しんでいただきたい。