いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「アンマーとぼくら」有川浩(講談社)

アンマーとぼくら
アンマーとぼくら

休暇で沖縄に帰ってきたリョウは、親孝行のため「おかあさん」と3日間島内を観光する。一人目の「お母さん」はリョウが子どもの頃に亡くなり、再婚した父も逝ってしまった。観光を続けるうち、リョウは何かがおかしいことに気がつく。
かりゆし58の名曲「アンマ―」に着想を得た、書き下ろし感動長編。


ずっとふわふわしてた気がする。
定まらない自分の記憶、交差する過去の自分や家族。有川さんらしくない現実感のない世界観に驚いた。
人が塩になる世界でも、本一つでドンパチやる世界でも、小人が出てくる世界でも必ずどこかに生活感が出ていて、現実味のある地に足の着いた話になるのが有川作品のイメージだったのに、この作品はそのイメージの180度逆、ずっと夢の中にいるようだった。結末からするとそのイメージは概ね間違っていなかった。要するに狙い通りに乗せられた訳だ。やられた。
そんな現実感のない話でもしっかり泣かせてくるのがこの物語。後半は怒涛の涙ラッシュ。
でも親の死はちょっとずるい。主人公のリョウが語る子供っぽく滅茶苦茶な父親のエピソードに何度も頭に来てたのに、いざ亡くなると涙がこぼれるんだから。歳の近いリョウに感情移入して読んで、彼に貰い泣きした面が大きいのだけど。そしてラストは……。
リョウと一緒に現実に引き戻されても、泣いた後はのぼせみたいな状態になるから結局ふわふわしているという。
いつもと違う作風に戸惑いながらも、いつか必ず来る親との別れと親孝行に考えさせられつつ、気持ちよく泣けたので読後感は悪くない。