いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Babel ―異世界禁呪と緑の少女―」古宮九時(電撃文庫)

Babel ―異世界禁呪と緑の少女― (電撃文庫)
Babel ―異世界禁呪と緑の少女― (電撃文庫)

『小説とかドラマって不思議だと思わない? 異世界でも言葉が通じるなんて』
ごく平凡な女子大生・水瀬雫は、砂漠に立ち尽くしていた。不思議な本を拾った彼女は気づけば“異世界”にいたのだ。
唯一の幸運は「言葉が通じる」こと。魔法文字を研究する魔法士・エリクに元の世界の言語を教える代わり、共に帰還の術を探す旅に出る雫。しかし大陸は二つの奇病――子供の言語障害と謎の長雨による疾患で混乱を極めていて……。
自分に自信が持てない女子大生と、孤独な魔法士。出会うはずのない二人の旅の先、そこには異世界を変革する秘された“物語”が待ち受けていた。
藤村由紀名義でWEB上に掲載以降、絶大な支持をされた大人気WEB小説が大幅加筆修正で、ついに書籍化!

これが褒め言葉になっているか微妙だけど、とても地味で実に自分好み。
ジャンルとしては今流行の異世界転移ものではあるが、書かれた年代が少し前という事もあるのか、現代の技術を持ち込んで大活躍する様な要素は一切ない。ごく普通の文系女子大生・雫が、何故か通じる言葉だけを頼りに、異世界を懸命に生き抜く物語。
雫本人や旅の同行するエリクをはじめとした身近な人たちの人柄の良さで作品の雰囲気がとても良い。美しい。もちろんそれだけではない異世界の厳しさもしっかりと描かれていて、その中でこれといった特技がない雫が、自分の出来る精一杯のことをしようと勇気を振り絞る姿が愛おしい。 
不思議と通じる言葉のことも、なぜ通じるのかを異世界の秘密の謎を解く一つの手掛りとして扱っているので、今よくある作品の様になあなあにすることはない。そんな設定に妥協がない点も好印象。
異世界転生俺TUEEEのなろう系の方々には是非とも163頁の会話を読んでもらいたい。そして一度考えてもらいたい。まあ、安易に成功する気持ち良さしか求めていない人には読んでも何も刺さらないかもしれないけど。
とても面白かった。
雫が帰る手掛りは? 本の秘密は? エリクの正体は? 最後に出てきた美女は……大体誰か想像つくけど、色々と謎が残っているし同行者も増えそうで、続きが楽しみ。