いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「いつかの空、君との魔法」藤宮カズキ(角川スニーカー文庫)

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)
いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)

「あの雲が、本当のことを全部隠してるんだ」
常に上空を覆う雲によって、空の青さを知らない世界。雲を払えるのは《ヘクセ》と呼ばれる魔法使いの少年少女だけ。並外れた飛行技術を持つ少年カリムは、幼馴染みで当代随一の《ヘクセ》揺月と再会する。しかし彼女はある病により、昔とはまるで別人で……? 「高く飛べない」少年と「空でしか生きられない」少女の邂逅が、世界の色を変えていく。
第21回スニーカー大賞《優秀賞》受賞作。

最後まで読めばなかなかいい青春小説だった。
前半は世界観の把握に頭を使う。直接的に説明するよりも、やっていることを見せて分からせていくスタイルで書かれているので、見慣れない用語に四苦八苦。まあ説明をダラダラ長く書かれるよりはこちらの方がいいが。概略は子供は魔法、大人は魔術を使えること以外は現代と似たような世界観だろう。ちなみに魔法と魔術の違いはちゃんとした説明が無いので分からないが、読むのに特に問題はない。
で、その舞台で幼馴染みの主人公・カリムとヒロイン・揺月の一緒に居たいけどいられない境遇と、過去に揺月に事故を追わせてしまったカリムの葛藤。そこにカリムに恋する学園の先輩レイシャ加わった三角関係で、切ないラブストーリーが繰り広げられる。
……のだが、中盤は思考の堂々巡りを延々と読まされる。
三人それぞれの視点があるが、誰の時でもほとんど同じことしか言ってない。頭の中がグルグルしている様子を描くのも青春小説の醍醐味ではあるが、ここまでなんの進展もないのは流石にどうかと思う。おかげさまで寝落ちしました
それでいて主人公が吹っ切れるラストは、美しく仕上がっていて読後感は最高。このシーンによっての出来不出来の差は新人賞だなあ。
もう一つ特筆すべき点としては、情景描写が実に巧み。
空飛ぶ少年(少女)魔法使いと、彼らが呼び起こす精霊たちの可憐に優雅に空を飛ぶ様子を、鮮明にイメージできる丁寧な描写が素晴らしい。アニメーションにしたら間違いなく映えるであろう綺麗な映像が頭に浮かんだ。
完成度は決して高くないけれど光るところはいくつも有る、とても新人賞らしい作品だった。