いつも月夜に本と酒

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「追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ」田辺屋敷(富士見ファンタジア文庫)

追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ (ファンタジア文庫)
追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ (ファンタジア文庫)

二学期初日。空虚な日々を送っていた俺、篠山マサキは混乱した。慣れた様子で教室へ突然現れたのは、俺の記憶にだけ存在しない少女。しかも、優等生と評判のお前ときたら、猫被ってるわ、仮面恋人を演じるハメになるわで、もう散々だった。
だけどお前は、俺にお手製の弁当を作ってくれた。一緒に登下校をしてくれた。誰にも言えない妙な関係だけど、そんな毎日を何よりも楽しんでる俺がいた。でも、気づいたんだ。出会うはずのないお前との時間は、結局絵空事に過ぎない、と。だから俺は――風間ハルカを消すことにした。
第29回ファンタジア大賞〈金賞+審査員特別賞〉受賞作。

ある理由から野球部を止め灰色の夏休みを送った篠山マサキは、二学期初めにクラス中で自分だけが知らない少女・風間ハルカに出会う。混乱の最中、ひょんなことから彼女と仮面恋人を演じることに。時を同じくして祖母に送ったはずの手紙が別人に届いたことから始まった文通の内容と、ハルカとの奇妙な一致に気付き初め――という感じのSF青春小説。
全体的にやることが極端というか、SF要素ありなのに作りが大雑把。新人賞らしく荒削り……のレベルはちょっと超えているかも(^^; 伏線張りすぎで先がバレバレだったり、主人公が秘密を打ち明ける時は一気に全部吐き出してしまったり、初めから引っ張った退部の理由を上手く使えていなかったり。
でもこれが不思議と面白く、最後はちゃんとジーンとくるものがあった。作り方はいい加減なのになぜか美味い料理みたい。
まず目立つのはマサキとハルカの会話。二人とも毒舌で、お互いに罵り合っているのに仲良さそうと感じる絶妙な塩梅の会話が楽しい。特に中盤はじゃれ合ってるみたいでニヤニヤもの。
それと主人公のマサキがなんだかんだ“いい奴”だったこと。もっと荒れていてもおかしくない状況、彼女に自分勝手なことをさせられる状況にありながら、不誠実な行動がなかった。一人称視点の彼が誠実だったからこそ読んでいて清々しい。
あとはラストシーンの美しさ。そこまでの適当さを補って余りある綺麗な流れと締めに感動。
大賞作品と比べると完成度では大きく見劣りするものの、面白いのはこちらで作者に未来を感じるのもこちら。(しかし、その後あまりに正直すぎるあとがきを読んで不安になる(苦笑))



ところで可愛らしい動物のぬいぐるみ(本文)の挿絵が可愛くない、むしろ怖いうさぎのぬいぐるみなのは絵師の趣味なの?