いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「女流棋士は三度殺される」はまだ語録(宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)
女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

かつて天才少年と呼ばれた松森香丞。とある事件をきっかけにプロ棋士の道を諦めた彼は、高校の将棋部でひっそりと活動している。ひと癖もふた癖もある幽霊部員たちに悩まされながら、文化祭の準備をしていたある日、幼馴染みの少女が血塗れで倒れているのを発見する。彼女を襲った犯人を見つけるため、調査を始める香丞だったが、彼女の過去と将棋には大きな秘密があるのだった。

楽しむ前提条件が、将棋にさほど興味のない一般人にはハードルが高すぎる。
言葉遊びの要素が強い会話の面白さがこの作品の魅力。だとは思うのだけど、二言目三言目には例えに過去現代問わず棋士の名前が出てくるので、そこで「誰(何)それ?」になって面白さが止まってしまう。過去の棋士の名言や、現代の棋士の為人が頭に入っている人には、恐らく面白い例えや小ネタなのだろう。
また、将棋の題材にした小説では対局の緊張感を味わうのが一つの醍醐味だと思っているのだが、本作の対局は1回のみ。しかも事件の種明かしをしながらの対局で、種明かしの方が主だったので、残念ながら対局の面白さはなかった。
それでも話のメインが良ければさほど気にならなかったのに……。
物語としては、主人公の少年が部室で血を流して倒れていた幼馴染みの事件の真相を追うミステリ。
誰が誰を庇っているのか、愛憎によってもつれる真相を推理する……はずが、突然出てきた近未来医療技術が全てを掻っ攫っていった。は? いや、未来の話だから知らない技術は出てくるのはいいよ。でも動機面を推理する形にしておいて、最終的な動機をそこに置いたらダメだろう。読者には分かり様がない。
将棋の面でもミステリの面でも非常に不親切な作品だった。