いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「自殺するには向かない季節」海老名龍人(講談社ラノベ文庫)

自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)
自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

高校生の永瀬は、ある朝同じクラスの生徒が列車に飛び込むところに遭遇してしまう。なぜ死を選ぶのか、理由を考えるが答えは出ない。そんな永瀬は、友人の深井から蝶は羽ばたかないという言葉とともにあるカプセルを渡される。それはとても小さなタイムマシンであり、バタフライ効果の根源に作用するという。半信半疑ながら夜にカプセルを飲んだ永瀬が目覚めると――二週間以上も過去に戻っていた! そして永瀬は、雨宮と雨の屋上で出会う。会話の流れで、彼女の希望を知っていることがばれた永瀬は、願望の実現――自殺の方法を調べることを手伝うことになり――! 青春を鮮烈な筆致で描く、第6回講談社ラノベ文庫新人賞〈大賞〉受賞作が登場!

「思春期」
この一言“だけ”を感じる作品だった。
平凡な日常で積る鬱屈した想い、生きることに対する疑問、ある種の潔癖さ。そういうものが他人より少し強く出た少年少女の物語。
“だけ”なのは他にこれといって印象に残らないから。
タイムスリップする薬が出てくるが、それに関する考察が主人公の友人から少々されるだけで、それ以上突っ込んだ話をするわけでもない=SF的な楽しみはない。一応、未来を変えようとしたり運命に抗ったりするが、そこに懸命さはない。自殺をテーマにしながら教訓めいたものはなければ、イジメはあってもさほど陰湿だったりもしない(そもそもイジメはほとんど表面に出てこないので)。
ないない尽くしで良くも悪くも力が入っていなくて、退廃的な雰囲気でありながらサラッと読める、ヘビィなタイトルに反してライトな作品だった。
悪くはないがこれが〈大賞〉か。ラノベの新人賞にも一般小説の新人賞にも佳作辺りにこっそり居そうな作品。