いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「平浦ファミリズム」遍柳一(ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)
平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

五年前、ベンチャー企業の社長である母を亡くした平浦一慶。残されたのは、喧嘩っ早いトランスジェンダーの姉、オタクで引き籠りの妹、コミュ障でフリーターの父だった。かくいう一慶も、高校にもろくに通わず、母譲りの技術者としての才能を活かし、一人アプリ開発に精を出す日々を送っていた。穏やかな家庭での日常。退屈な学校生活。そんな現状を良しとしていた一慶だったが、たったひとつの事件をきっかけにして、事態は徐々に、彼の望まぬ方へと向かっていくこととなる……。第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作品。

よくこれをエンタメ小説に落とし込んだなあ。
社会的マイノリティーが集まった平浦一家の迫害の歴史と、長男・一慶の神童ゆえの苦悩を描く“人を信じること”をテーマにした物語。
語られるのは、普通の格好をして普通に学校/会社に行って……など、世間一般の「普通」であることから外れた人間に対する世間の冷たさと、何でも一人で出来てしまう子供だったからこそ幼少期から見えてしまった人のずる賢さ、醜さから人間不信に陥り、何気ない純粋な好意や親切心しまで信じられなくなっている主人公・一慶の日常。
そんなシリアスな話の中で「個性の尊重」と「協調性」、相容れにくい二つの、かつ間違いなく後者が尊重される日本社会での、人それぞれの落とし所を探っていく。(作中で自分の常識を押し付けてくる人物はいるものの)作品としてはどちらの意見も押し付けることなく、かと言って頭ごなしに否定するでもなく、一慶の身に起こるいくつかの事件から一緒に考えようという姿勢をとっているところに好感が持てる。
と、どこか道徳の教科書を思わせる内容ながら、ちゃんと笑いあり涙ありの楽しく読めるエンタメ小説になっているのが凄いところ。キャラクターの個性を出すのが上手いので、それを生かした会話シーンが小気味よい。
ライトノベル?と思う内容だが、学生に読んでもらいたいという観点では、出すレーベルは合っているのかもしれない。