いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君と夏と、約束と。」麻中郷矢(GA文庫)

君と夏と、約束と。 (GA文庫)
君と夏と、約束と。 (GA文庫)

「葉月、なのか……?」
「うん……そうだよ」
7年前に行方不明になった彼女は突如として現れた。消え去った当時のままの14歳の姿で――。
かたや大学生になっていたヒナタ。同級生だったはずの二人に生じた7年のズレ。齢の差があっても気持ちを通わせ合う二人だが、お互いが覚えている「昔の記憶」には、なぜだか微妙な違いがあり……。
ふとヒナタの心に疑問が浮かぶ。目の前にいるのは、本当にかつて一緒に時間を過ごした相手なのか?
それは葉月も、また同じだった。彼女はおびえた目でヒナタに問いかけてきた。
「あなたは……誰、なの?」

中学の時に行方不明になった彼女と、失踪当時のままの姿で7年越しに再開するタイムスリップラブストーリー。
不穏な空気を漂わせるあらすじや帯の「泣いてみませんか?」の謳い文句で切なさ重視かと思いきや、蓋を開けてみたら甘さ重視のラブコメだった。
登場人物はたった3人。友達の少ない大学生の夏休みという舞台を上手く使って、主人公のヒナタにタイムスリップJC彼女の葉月、ラブコメのサブヒロイン+説明役の後輩・喜野の関係だけを書いているので、描写が濃密なのが良いところ。
また、ヒナタだけでなく葉月側の視点があって、どちら側でも相手のことがどれだけ好きで大切かが語られているのと、葉月がノリのいい子なので、傍から見るとバカップルにしか見えない。
話の流れ上、別れのラストにはなってしまうが、泣き笑いながらも笑顔で別れられて、おまけにもう一人の少女の心が救われて、読後感も爽やかでいい感じ。
……と、思っていたのだが、なんだこのエピローグは!?(ドン引き)



以下がっつりネタバレ


そこで「おかえり」?
作中のタイムスリップの説明から普通に考えると、この子はまた別の平行世界の葉月であると考えられる。万が一ヒナタの知る葉月が強く帰還を願って運よく〈時震〉に遭遇したとしても、戻るのは飛ばされる前に近い時間になるはず。7年後では思い描く人はもはや別人だから。しかもこの子は、冒頭の葉月と同じようにうずくまっているところから察するに、タイムスリップ初体験の可能性が高い。
そもそも帰る方法を説明された時の葉月の「それなら、どうして……」の意味を、正しく理解していたヒナタがこの場面で「おかえり」なんて言うはずがない。
なのでヒナタが病んでしまった説が自分の中では有力。おかげで後味がめっちゃ悪い。