いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「月とライカと吸血姫3」牧野圭祐(ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫 (3) (ガガガ文庫)
月とライカと吸血姫 3 (ガガガ文庫)

有人宇宙飛行で共和国に敗北を喫した連合王国は、名誉挽回のための新計画『アーナック・ワン』を始動。民族融和と科学技術大国推進を打ち出す広報プロジェクトだ。新人技術者のバートは王国初の宇宙飛行士の弟であることを理由に、広告塔へ選出されてしまう。パートナーは吸血鬼の末裔、カイエ。バートは不慣れな業務をカイエとともにする中で、彼女の秘めたる想いを知っていく。「私は月なんて大嫌い」。――これは華々しい宇宙飛行の裏側に存在した、語られることなき地上の星々へ送る英雄譚。宙と青春の物語、連合王国編始動。

冷戦時代の宇宙開発戦争をモチーフにしたスペースロマン第三弾。
今回から新章突入。舞台はレフやイリナの居る共和国(ソビ○ト)から、連合王国(アメ○カ)へ。
吸血鬼たちが隠れて細々と暮らしていた共和国と違い、連合王国では社会に認知され血が混じり合って新血種族として生きているのが大きな違い。しかし、人間から虐げられているのはこちらも同じ。恐らく当時の黒人社会をベースに書かれているのだろう。おかげで共和国編より吸血鬼たちへの差別が実感しやすい作りになっている。……とは言っても、島国の日本人には共感しにくい感覚ではあると思う。
舞台の背景の話はこれくらいにして、本題に入ろう。
物語は、宇宙飛行士の兄と比べられ劣等感の中で生きてきた青年バートと、宇宙開発に欠かせない頭脳を持つ上に銀髪美人ながら新血種族というだけで疎まれてきた女性カイエの二人が主人公。
共和国編のハラハラ+ワクワク感と比べると、ヤキモキ感が強い。
新章の男主人公バートはちょっと、いやかなり情けない。目標がしっかりしているレフと違って、自信もなければ目標もおぼろげなバートは状況に流されっぱなしで、叱咤したくなる場面は数知れず。でもその分、差別意識が強い社会常識の中で、差別をしない実直な人柄が功を奏してか、周りに助けられて少しずつ成長する様子を感じることが出来る。上司の部門長やベテラン空軍兵など、おっさん達の男気が光る場面が多いのが嬉しいところ。
また、カイエとの関係が今のところ淡泊なのも気になる。レフとイリナの間には割と早くから甘い空気が漂よっていた気がするのだが。種族の違いはからベート自身あまり気にするタイプではなさそうなので、ずっと一緒にいる=離れている期間がないお互いの存在の意味を感じたり考える時がないのが原因かな、と思ってみたり。
そんなわけで、共和国編と比べるとスロースタートな印象を受けた連合王国編。宇宙開発もようやく有人軌道飛行に追い付いたところなので、ここから連合王国の反撃が始まるだろう。諸説ある月面着陸をどう扱うかが楽しみだし、レフとイリナとの対面もありそうで、その瞬間も今から楽しみ。