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ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「探偵AIのリアル・ディープラーニング」早坂吝(新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)
探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

賢くて可愛いAI 探偵が悪の組織と本格推理対決。
人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。「探偵」と「犯人」、双子のAI を遺して――。高校生の息子・輔は、探偵のAI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。次々と襲いかかる難事件、母の死の真相、そして以相の真の目的とは!? 大胆な奇想と緻密なロジックが発火する新感覚・推理バトル。

もしAIに人間が起こす事件を推理させたとしたら、「フレーム問題」や「シンボルグラウンディング問題」など、実際のAI開発で直面する難題にぶつかった時、どういうエラーを起こすのか、またどうやって乗り越えていくのか。という脳内シミュレーションを書いたような作品。ミステリやSFというより思考実験的。
ミステリはそのテーマというか、AIがぶつかる問題を分かりやすく表す為のツールとしての役割が大きかった。それでも探偵AIの教科書として、実在の名作がいくつも出て来て「おっ」となるのがミステリファンには嬉しいところ。
それともう一つの要素としてキャラクター小説として側面も大きい。
単純に言って、探偵AIの相以(あい)が可愛い。
推理が当たった時にドヤる様子や、間違えた時の落ち込み方など浮き沈みがコミカルに描かれていて子供っぽかったり、ミス自体は人間らしくないのに、ミスすると言い訳したり反省したりするのが人間臭かったり。
また、相棒である輔(人間)と一緒に考えていくことで、人とAIが二人三脚で高め合っていく成長譚にもなっている。エラーが少なくなり、推理する時に犯人の動機や思考を読み解くようになっていき、その思考が人間の考え方に寄り添っていきと段々精度が上がっていく過程が面白い。
比重がミステリ<AIだったのもコミカルだったのも予想外だったけど、試みも内容も面白く楽しい読書時間だった。